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いつの日か私は学研の「現代日本の文学」を全巻揃えることが出来るだろうか

いつの日か私は学研の「現代日本の文学」を全巻揃えることが出来るだろうか

坪内 祐三

『最後の人声天語』(坪内 祐三)

出典 : #文春新書
ジャンル : #ノンフィクション

『最後の人声天語』(坪内 祐三)

 何よりも驚いたのは、えっ、この人の写真が残っていたのという写真が載っていたことだ。

 高見順は少年時代、麻布に暮らし、近くの住人に岡本癖三酔がいた。

 癖三酔は明治の大実業家岡本貞烋を父に持ち、一生を趣味人として暮らし、畸人として知られた。

 かつて雑誌『ノーサイド』で「異色の父と子100組」という特集(一九九四年八月号)を作った時、その百組の一つに岡本親子も選ばれたが、癖三酔の写真が探せなかった(現物を目にしていただけばわかるが同誌に載っている癖三酔の肖像写真は何かの雑誌に載っていた集合写真を拡大したものでとても画像が悪い)。

 学研の『高見順集』には癖三酔と並らんで撮っている高見少年の写真が載っていた(なるほどこういう姿形の人だったのか──まさに畸人だ)。

 全五十巻と書いたが、やはりBOOK・OFFで「Ⅱ─7」巻『嘉村礒多・梶井基次郎・中島敦集』を見つけた。

 この三人は全五十巻には収録されておらず、「Ⅱ」ということは第二期なのだろう(初版は昭和五十一年刊で私の手元にあるのは昭和五十六年刊の第五版でこの頃まで文学全集の時代が続いていたのだ)。この第二期は何巻刊行されたのか。

 私が所有しているのはまだ十冊に満たない。

 というのは、ある時期からこのシリーズ(だけでなく昭和三十年代四十年代に出た日本文学全集)、BOOK・OFFで殆ど見かけなくなってしまったからだ。

 この手の全集の端本は以前だったら町の普通の古本屋の店頭の均一台でよく見かけた。

 けれどその「町の普通の古本屋」が今や壊滅状態だ。

 さらに恐しい事実がある。

 神田や高円寺や五反田の古書会館で週末、普通の人が覗ける古本展が開かれる。

 この手の全集の端本に出会える確率が一番高いのは五反田(の一階のガレッジセール)だ。

 しかし、会期が終わっても売れ残ったこれらの均一本は、ツブシと称して廃棄される。

 学研のこの日本文学全集(だけでなく当時の日本文学全集)は、もう、かなり廃棄されてしまっただろう。

 この全集の五十巻揃いが目録に載ることなどあり得ない。私なら五十冊一万円でも買うけれど普通の人は五千円でも買わない。

 全五十巻のリストを覗めていると面白い。「二葉亭四迷・樋口一葉」に始まり、「曾野綾子・倉橋由美子・河野多恵子」に至る全五十巻のこの全集に泉鏡花と永井荷風が含まれていないのだ。例えば国木田独歩と並らんで徳富蘆花が収録されているのに。版元が学研(学習研究社)だったから?


(「2015年(平成二十七年)」より抜粋)

文春新書
最後の人声天語
坪内祐三

定価:1,045円(税込)発売日:2021年01月20日

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