![作家の羽休み――「第23回:群馬の蝋梅」](https://b-bunshun.ismcdn.jp/mwimgs/b/0/1500wm/img_b0aad69d732b66a850cefa5b34713dc5109022.jpg)
とはいえ、代わりに自然が豊かなところは本当にすばらしいと思っています。
家のまわりには大量の草花(雑草という草はないそうなので)があったので、小さい頃は木登りや秘密基地作りや見様見真似の草木染めをして遊んでいました。以前、私の書く話にはやたら植物の描写が多いと指摘されたことがあるのですが、育った環境から影響を受けているかもしれませんね。
同じ関東でも東京と群馬では開花時期がだいぶ違って、春に帰省する時はいつも得した気分になります。東京でお花見を楽しんだ後に群馬に戻っても、群馬の桜の見頃はまだまだこれからといった具合なのです。
ちょうど今は、蝋梅(ろうばい)が見頃です。
我が家の蝋梅は家の裏手の竹やぶにあり、開花も遅ければ見頃も長く、小さい頃はよく遊び道具にしていたものでした。咲いている場所は家の陰で、たまの降雪があると一番遅くまで雪が残っていたのですが、白い地面の上にパッと鮮やかな金色の花が散らばっている様は、まるで誰かがそういった絵を描いたようにも見えました。小学生の頃、私はちょっとしたお裁縫が好きだったので 、端切れで小袋を作って、その中にありったけの蝋梅の花を詰め込んだことがあります。つるりとした質感の花びらは乾燥させても綺麗な色を保っており、しかもずっといい香りが続くので、匂い袋にしたのです。あれは確か、母にプレゼントしたような気がします。
東京でもしばしば蝋梅を目にしますが、私がその度に思い出すのは、群馬の竹やぶにひっそりと咲く、実家の黄色い花のことなのです。
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阿部智里(あべ・ちさと) 1991年群馬県生まれ。2012年早稲田大学文化構想学部在学中、史上最年少の20歳で松本清張賞を受賞。17年早稲田大学大学院文学研究科修士課程修了。デビュー作から続く著書「八咫烏シリーズ」は累計130万部を越える大ベストセラーに。松崎夏未氏が『烏に単は似合わない』をWEB&アプリ「コミックDAYS」(講談社)ほかで漫画連載。19年『発現』(NHK出版)刊行。現在は「八咫烏シリーズ」第2部『楽園の烏』を執筆中。
【公式Twitter】 https://twitter.com/yatagarasu_abc
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