高校3年生で、間もなく受験を迎える参加者に対しては、「(コロナ禍の)今年の受験は特に大変。精一杯頑張ってうまくいくことを祈っているけれど、もし思うような結果が出なかったとしても、人にはいろんな可能性があることを知って試験に臨んでほしい」と優しく語りかけた。そして、辻村さんもまた受験に際して同様の言葉をある作家からもらった、という秘話が明かされた。その作家とはミステリー作家の綾辻行人さん。高校時代、ファンレターを出したことから交流が始まった綾辻さんから届いた手紙に、「いまは受験が全てに見えるかもしれないけど、長い人生にはいろんなことがある。いろんな世界があなたの前にはある」と記されていたと懐かしそうに語った。
綾辻さんとの交流には後日談がある。辻村さんが社会人になり、デビュー作『冷たい校舎の時は止まる』を講談社のメフィスト賞に応募した際のエピソードだ。原稿を読んだ編集者がたまたま綾辻さんに「今回の受賞作はこれですね」と語ったところ、「たぶん、その作品を書いた人を僕は知ってる」という話になり、サプライズで綾辻さんから受賞の連絡があったという。また、同作は応募時、別のタイトルだったが、出版に際して「わかりやすいものを」と編集者から提案され、二十回を超えるメールのやり取りを経て、学園ものでありミステリーであることも伝わる『冷たい校舎の時は止まる』に決まった裏話も披露。まさに「ここでしか聞けない」贅沢な話の数々に、高校生たちは聞き入っていた。
質問の挙手は途絶えぬまま、予定の2時間が終了。読書会の最後に辻村さんは、「コロナ下の高校生活を大人は誰も経験したことがない。いま皆さんが感じていることをぜひ覚えておいてほしいし、それを文章にすればきっとあなただけが持つ大事な言葉になる。今後もぜひいろんな小説に親しんでください」と締めくくり、大盛況のうちに幕を閉じた。
終了後のアンケートでは、「たっぷり質問の時間が用意されてよかった」「ひとつひとつの質問に丁寧に答えてもらった」「辻村さんを身近に感じることができた」などの感想が届くなど、高校生にとっても満足度の高いイベントだったようだ。
コロナ禍によって一堂に会することが難しい中、オンライン読書会という新たな試みは読者と作家を結びつける可能性を広げたといえるだろう。今後も高校生直木賞実行委員会は、折々にオンライン読書会を開催していく予定だという。
※第8回高校生直木賞の候補作は、下記の5作です。
伊吹 有喜 『雲を紡ぐ』(文藝春秋)/伊与原 新 『八月の銀の雪』(新潮社)/加藤 シゲアキ 『オルタネート』(新潮社)/西條 奈加 『心(うら)淋し川』(集英社)/馳 星周 『少年と犬』(文藝春秋)
賞の詳細は、高校生直木賞HPをご覧ください。
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『烏の緑羽』阿部智里・著
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