- 2021.04.14
- 書評
リアルとフェイクが絶妙にブレンドされた警察小説
文:村上 貴史 (ミステリ書評家)
『最後の相棒 歌舞伎町麻薬捜査』(永瀬 隼介)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
■最後の相棒
本書『最後の相棒 歌舞伎町麻薬捜査』は、二〇一七年に刊行された『凄腕』を改題し、文庫化した作品である。
ひとことでいえば、なかなかに異形の警察小説だ。
五章構成の、そう、長篇なのだが、第一章と第二章は、それぞれ短篇警察小説としての色彩が濃い――少なくとも、第二章まで読んだ段階では、そう感じるだろう。その二篇は、いずれも魅力的な短篇であり、また、視点人物も舞台も異なっている。
第一章で描かれるのは、JR立川駅南口で起きた地元の半グレ殺人事件である。事件発生から三週間が経過しても捜査が進展しないという状況で、警視庁から追加の捜査員が投入された。圧倒的な実力派という評判と、頑固で偏屈な変わり者という評判を備えた桜井文雄、五十七歳の警部補である。警視庁で殺人事件を扱う捜査一課ではなく、組織犯罪対策部に所属する筋金入りのマルボウ担当だという。そんな“大物”の相棒として抜擢されたのが、三十一歳になる所轄の新米刑事、高木誠之助である。刑事になって初めて参加した捜査がこの事件だが、桜井投入までは、タレコミの電話番をしていたという男だ。高木は、桜井とのコンビで捜査の現場での聞き込みを初めて経験し、桜井という刑事の凄味を目の当たりにしていく。だが、程なく桜井は、高木を置き去りにして姿をくらましてしまった……。
桜井の捜査は、緻密な観察眼と巧みな対人スキル、アンダーグラウンドな社会に関するディープな知識に支えられており、それが立川の所轄の素直な(あるいはウブな)視点で描写されることで、実に判りやすく、刺激的な短篇警察小説として読者に伝わってくる。しかも、終盤にはとことん想定外の展開も用意されているからなおさらだ。
続く第二章は、チキンのマサヤこと戸田昌也という小心者のチンピラが、新宿の半グレと名古屋の暴力団のシャブ取引の橋渡しを画策する短篇として読める。昌也の視点で描かれるこの章では、シャブの新規取引が克明に描写されており、細部の駆け引きやその緊張感で読み手を魅了する。さらに後半の展開も刺激的で引き込まれる。だが――第一章と第二章の連続性がよく判らず、読者は少しばかりのモヤモヤを胸に抱きながら読み進むことになる。こうした展開が、なんとも異形なのだ。
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