本の話

読者と作家を結ぶリボンのようなウェブメディア

キーワードで探す 閉じる
特別対談 世界の人口動態は帝国を再編するか

特別対談 世界の人口動態は帝国を再編するか

内田 樹 ,藻谷 浩介

『人口減少社会の未来学』(内田 樹)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #ノンフィクション

『人口減少社会の未来学』(内田 樹)

中国の人口減少が世界を変えていく

 藻谷 ところで、総人口だけでは実態はわかりません。少子化するとまず乳幼児の数、次いで若者の数が減ります。総人口が減り始めるのはその数十年後で、そこで騒いでも、もう手遅れです。

 わかりやすいのは中国ですね。国連の人口部が2~3年に一度、世界各国の1950年~2100年の毎年の、年齢別人口推計と予測をエクセルで出していますが(HPから閲覧可)、2019年度版を見ますと、15年から20年の最近5年間の変化が半端ではない。総人口は3250万人増えているのに、15~44歳は4200万人も減っている。率では7%減少で、これは日本の9%減と大差がありません。空前の人手不足が起きていますし、消費の成長も前のようにはいかなくなります。

 内田 一人っ子政策が終わったのは2015年ですが、そのあとも出生数は回復してないということですか?

 藻谷 一人っ子政策を行っている間に、出生数が3分の2に減ったので、今は若い親世代が減り始めました。そのため、0~4歳の乳幼児も最近5年間は3%減です。他方で、一人っ子政策の前に生まれた世代の加齢で、70歳以上は23%も増えました。日本は同じ5年間に16%増ですから、中国の方がよほど深刻です。しかも年金制度も医療福祉体制も整備途上ですし。

 台湾や香港の少子化はさらに深刻です。出生率も1.0近くまで下がっています。

 内田 台湾や香港がそんなに低いんですか。それは知らなかった。

 藻谷 台湾は地味豊かな火山島で降水も多く、人口も2300万人程度なので、そんなに自然の容量をオーバーしていないはずなんです。やはり、中国の脅威の影が差しているのかもしれません。将来はどうなるかわからないという漠然とした不安が出生率を下げている気がします。

 ですが東南アジアや、インドなどの南アジアでも、少子化は始まっています。欧州や米国でも乳幼児が減り始めました。他方で中近東やアフリカの多くの国では、背景にイスラムへの回帰志向もあるのか、まだ出生数が増えています。中国でもムスリムのウイグル人は少子化していないでしょう。だから、漢民族がむちゃくちゃな弾圧を加えて、何とかおさえ込もうとしていて……。

 内田 漢民族はウイグル人の人口増大を恐れていますよね。断種や不妊手術という出生数削減をめざした弾圧策からも明らかだと思います。

 藻谷 露骨にひどいことをやっている。ムスリムの国々までもが中国を野放しにしていますね。

文春文庫
人口減少社会の未来学
内田樹

定価:869円(税込)発売日:2021年04月06日

プレゼント
  • 『グローバルサウスの逆襲』池上彰・佐藤優 著

    ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。

    応募期間 2024/4/19~2024/4/26
    賞品 新書『グローバルサウスの逆襲』池上彰・佐藤優 著 5名様

    ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。

ページの先頭へ戻る