内田 水争いで。
藻谷 ええ。たとえばイスラエルとパレスチナの対立の根底にも、減りゆくヨルダン川の水の取り合いがあります。中近東では海水の淡水化技術も普及していますが、莫大なエネルギーを消費するやり方がいつまで続くのか。アフリカの貧しい国々の多くの状況は、ましてや深刻です。
しかし、人口増加=国力増進という考え方は、特に中近東には根強いように思えます。トルコなど、エルドアンが登場するまでは少子化がかなり進んでいたのですが、彼はかなり強引な出産奨励政策で少子化を食い止め始めました。イランの保守派政権にも同じ傾向が観察できます。
内田 そうなんですか。前にイスラム法学者の中田考先生からトルコはオスマン帝国圏を復活させる計画があるのではないかという話を伺ったことがあります。たしかに、バルカン半島の危機や、中近東の紛争問題を解決するにはオスマン帝国の復活というのは奇策だと思います。スンナ派テュルク族ベルトは、トルコからアゼルバイジャン、カザフスタンを通って、新疆ウイグルまで西アジア全域に広がっています。宗教と言語と生活文化を共有する1億3000万人がこの地域に居住している。この人たちがある種の共同体を構築すると、その勢力は侮りがたいものがあります。何より、この人たちには集団を統合する「物語」がある。中国の「一帯一路」に対抗する、ユーラシア大陸を東西に貫くスンナ派テュルク族ベルトという壮大なイメージがあるいはトルコの人口のV字回復に関係があるかも知れませんね。
藻谷 私も中央アジアやコーカサス各国の旅行にはまっていまして、ウイグル、キルギス、カザフスタン、ウズベキスタン、アゼルバイジャン、そしてトルコでは、基本的に言葉が通じ合うというと現地で聞いて驚愕しました。ただし現状ではトルクメニスタンが鎖国状態ですし、アゼルバイジャンのアゼリー人はシーア派で、また世界最古のキリスト教国アルメニアが楔のように邪魔をしています。それに帝国の復活を最も警戒するのはロシアでしょうから、彼らがどう出るか。
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