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特別対談 世界の人口動態は帝国を再編するか

特別対談 世界の人口動態は帝国を再編するか

内田 樹 ,藻谷 浩介

『人口減少社会の未来学』(内田 樹)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #ノンフィクション

 内田 欧米も、中国の政策については、どうしてそんなことをするのかよくわからないというのが本音じゃないかと思います。欧米の外交専門家の分析を読んでも、中国がいま何をしようとしているのか、その内在的なロジックまで踏み込んで解明したものはほとんどありません。せいぜい1、2年程度の、習近平の動きについて短期的な予測はできても、30年、50年というタイムスパンで中国が何をしようとしているのかについては言及がない。

 藻谷 それはまずいですね。日本のネトウヨと同じで漢籍の素養がないわけですね。

人口の均衡が崩れると世界地図が変わる?

 内田 中国人はいまでも華夷秩序のコスモロジーの枠内で世界をとらえていると僕は思っています。世界の中心に中華皇帝がいて、そこから王化の光が同心円的に広がり、王土の外は「化外の地」であり、未開の蛮族が蟠踞している。「化外の地」は皇帝の実効支配は及んでいませんが、中国の領土であるようなないような、どっちつかずのエリアです。そして、その周縁に棲む蛮族たちは部族を統一して十分な実力をつけると、中原に侵入して、皇帝を弑逆して、自分たちの王朝を立てようとする。モンゴル族の元、女真族の金、満州族の清と、「化外の民」が王朝を立てた例はいくつもあります。豊臣秀吉も明を倒して、後陽成天皇を皇帝に頂く「日本族」の王朝を立てるつもりでした。20世紀に日本人が満州国を建国したのも、アイディアは同型的です。東アジアの人たちはそういうふうに華夷秩序コスモロジーの中に封じ込められている。それはいまでも変わらない。だから、漢民族にとっては、辺境の「蛮族」が侵入してきて、王朝を倒すというのはトラウマ的記憶なわけです。ウイグル族に対する異常な警戒心は「辺境」への恐怖という心理的な基礎があると思います。

 辺境の少数民族だけでなく、漢民族自身も必ずしも一枚岩であるわけではありません。9200万人、総人口の6.5%に過ぎない中国共産党員と、それ以外の国民の間には歴然たる身分格差があります。いま中国政府は国防費以上の予算を治安維持に投じて国民を監視しています。高性能監視カメラ、顔認証システム、自動テキスト分析、ビッグデータ処理などの国民監視テクノロジーで中国は世界最先端の技術を誇っていますが、それは逆に言えば、少しでも監視の手を緩めたら、国民がどう動くか分からない、体制が転覆するかもしれないという恐怖と緊張感が政府の側にあるということを意味しています。

文春文庫
人口減少社会の未来学
内田樹

定価:869円(税込)発売日:2021年04月06日

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