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特別対談 世界の人口動態は帝国を再編するか

特別対談 世界の人口動態は帝国を再編するか

内田 樹 ,藻谷 浩介

『人口減少社会の未来学』(内田 樹)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #ノンフィクション

『人口減少社会の未来学』(内田 樹)

 藻谷 それで思い出したのが、武漢でいち早くコロナの危険を訴えた李医師が死去して1周年のときに、勤務先だった病院の玄関に寄せられた献花を、当局が撤去したというニュースがありました。なんとも非人間的な話ですが、これはつまり、市民のささいな追悼がいつの間にか政府批判の大規模行動につながりかねないと、警戒しているわけですよね。何がきっかけで9000万人以外の13億人が「この野郎」と反乱を起こすかわからないということなのかもしれません。

 内田 国民に対する「恐怖政治」がこれだけ露骨になってきているということは、むしろ政権基盤の脆弱さを示す徴候ではないかと思います。共産党政権にとって最大のリスクファクターは、藻谷さんが指摘された通り、人口動態です。2027年に中国の人口はピークアウトして、その後一気に急激な人口減少と高齢化が訪れる。一人っ子政策のせいで親族共同体がほぼ空洞化してしまったので、これから独居の高齢者が大量発生します。でも、それを受け入れる社会保障制度がいまの中国にはありません。

 アメリカでも人口動態の動きが政治に直結しています。WASP(白人・アングロサクソン・プロテスタント)の出生率が下がってきている一方、アジア系や黒人やヒスパニック系は依然として出生率が高い。2045年には白人の人口比が50%を切り、有色人種が多数派になります。このトレンドはもう不可逆的です。白人たちは自分たちが少数派に転落することを非常に恐れている。人口動態の文脈からは、トランプ支持は少数派に転落しつつある白人たちの最後の抵抗に見えます。

 藻谷 だからでしょうか、主流派の余裕がなくて、やけくそで暴力的な臭いがありますね。

 内田 Qアノンの陰謀論者たちが恐怖しているのは、有色人種がアメリカの多数派になり、白人が少数派に転落する事態だと思います。自分たちがかつて少数派をどのように迫害してきたかを記憶しているだけに、少数派になることの恐怖はそれだけリアルなんでしょう。

 藻谷 中国にせよ、アメリカにせよ、日本以上にごく最近まで少子化が起きていなかったので、漢民族が減る、カトリックも含めた白人が減るという状況に、頭がついていっていません。しかも高齢者を含めた総人口はまだまだ増えているので、多くの人は呑気なままですから、気づいた人はついつい先鋭化します。日本でも総人口が減り始めたのは、少子化開始から40年以上も後でした。

 ですが増え続ければいいというものでもありません。多くの国でまだ少子化の起きていない中近東やアフリカで問題になっているのは、生活用にせよ農業用にせよ、「水」が足りないことです。これは食べ物がない以上に深刻なことで、実際に紛争の種になっています。

文春文庫
人口減少社会の未来学
内田樹

定価:869円(税込)発売日:2021年04月06日

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