英語学習本がここ数年、よく売れています。単語の語源から英語を学ぶ書籍から、ハードな英文読解本まで幅広く注目を集めています。4月27日に発売となった『英文学教授が教えたがる名作の英語』は、その名の通り『ガリヴァ―旅行記』やヘミングウェイ、フィッツジェラルド(そして村上春樹まで!)といった優れた文学作品の読解を通じて英語の読み方を学ぶ本です。
カンタンな英文を読むだけでは得られない英文読解力、そして文学史の教養も身につく同書の著者である阿部公彦さんによる連載です。第1回のテーマは「なぜ名作を使って学ぶのか?」です。
【第2回「名作の壁」を超える を読む】
私の手元に、ある統計資料があります。といっても私家版で、データもいい加減なのですが、直感的にはそれなりに正確だと思っています。私自身が学生の頃に本を手に取ったときに「誰からの紹介で知ったか」、その結果の「満足度」がどうだったかをイメージで示したものです。これを見ると、私が読んだ本の「ヒット率」とその「なれそめ」がどう相関しているかがわかります。
この打率表から、どんなことが言えるでしょう。
すぐに導き出せるのは、友人経由や口コミで得た本についての情報は、ヒット率が高いということです。みなさんはどうでしょう。
なぜそうなるかはすぐに説明がつきます。学生時代の友人は自分と環境が重なり感覚が近い場合が多かった。本を読んだときの受け止め方も似ており、好みも自分のそれと一致しやすい。友人たちから紹介された本のヒット率が高いのはそのためでしょう。
これに対し、先生が読ませたがる本や、古典としてずっと前から必読リストにあるような本は、そもそも自分の「圏域」の外にあるものも多い。そのため、今ひとつピンとこなかったり、ときには、ちんぷんかんぷんだったりする。
それなら、友人や口コミで知った本を読んだほうが効率が良さそうに思えます。人生は短いのだし……。しかし、果たしてほんとうにそれでいいのでしょうか。
そこで私は一つ注釈をつけたいと思っています。「不満足」「ちんぷんかんぷん」に分類される本は、ほんとうに自分にとって意味がないのか。そんなことはないと私は思っています。意味がわからなかったり、すぐにおもしろいと思えない本を手に取り、「なんだ、これは?」「わからない!」と打ちひしがれるのも、十分に意味のある体験なのです。なぜなら、そのおかげで「本がおもしろい」とはどういうことがわかってくるし、ハードルの高い本を読むうちに、本との付き合い方も身につく。そもそも一口に作品といっても、千差万別なのです。チラ見したり、流し読みするだけでわかってしまう本もあれば、反芻するように何度も読まざるをえない本、ぐちゃぐちゃになるまでメモをし、辞書を引きながらやっと読める本、もちろん一行目で頓挫してしまう本もある。そんなことを通して、それぞれの本との相性も確認できるし、やがては自分が本とどのような付き合いをする人間なのかも見えてくる。こうして、ちんぷんかんぶんだった本の、その「ちんぷんかんぶんさ」を味わいつつも、別のこともあわせて読み取ることになるのです。