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名作の「打率」を考える

名作の「打率」を考える

阿部 公彦

『英文学教授が教えたがる名作の英語』(阿部 公彦)


ジャンル : #ノンフィクション

 もちろん、これは「権威あるものは、何でもありがたく受け取れ!」という意味ではありません。むしろ逆です。私が強調したいのは、「すごい古典」「たいへんな名作」などと呼ばれているものでも、実際に手に取ってみるとさまざまな顔を持っているということです。天地を切り裂くほどつまらないものや、最後までまったく意味がわからないものもあれば、広大な視界が開けるような気分にさせてくれるもの、異様におもしろいものもある。そこをナマで体験したい。「権威」や「古典」という看板の向こうにある、本の「すっぴん顔」はびっくりするほど濃厚です。

 本書『英文学教授が教えたがる名作の英語』で紹介する名作はみなさんがどこかでタイトルを聞いたことのあるものでしょう。いわば権威の塊。しかも英語で書かれている。こりゃ、あかんと思いたくなる。しかし、いざ手に取ってみると、意外と引き込まれるはずです。なぜなら、それぞれがかなり「変」だから。個性が強くて、型どおりの「権威」や「立派さ」とは結びつかない。「古典」とか「名作」などという実体はないのです。実際に足を踏み入れてみると、そんな使い古しの看板からは想像できないほどの多様な世界が広がっています。

『英文学教授が教えたがる名作の英語』(阿部 公彦)

『ロビンソン・クルーソー』や『ガリヴァー旅行記』『高慢と偏見』といった本が書かれた頃には、今のように狭い意味での「文学」という枠はありませんでした。さまざまな種類の文章が、巨大な鍋の中に放り込まれてグツグツと煮えていた。だから『ロビンソン・クルーソー』や『ガリヴァー旅行記』を読むと、「ええ~。こんな話までするんだ! もう小説じゃないじゃ~ん」といった感想を持つ人も出てくるでしょう。なかなかレアな読書体験なのです。

 こうして「古典」看板をかかげた本をのぞくと、その向こうに社会や時代が、より大きな本として立ち現れてきます。「黄金の抜粋」の向こうには、作品という本だけではなく、さらなる本がある。私たちは永遠にこの巨大な本を読み通すことはできないかもしれませんが、抜粋には不思議な力がそなわってもいます。ごく小さな細部なのに、それを読むことで、ふっと全体が見えることがある。「読む」という行為には、そんな魔術的な作用がそなわっているのです。私たちは永遠に抜粋しか読めない。本のすべては読めない。でも、全体ではなく抜粋を読むからこそ、全体が見える。「黄金の抜粋」を読むダイナミックな楽しみを是非体験していただければと思います。


第2回「名作の壁」を超える を読む】

単行本
英文学教授が教えたがる名作の英語
阿部公彦

定価:1,925円(税込)発売日:2021年04月27日

プレゼント
  • 『もう明日が待っている』鈴木おさむ・著

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    応募期間 2024/3/29~2024/4/5
    賞品 『もう明日が待っている』鈴木おさむ・著 5名様

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