ここで行われている営為は間違いなく「観光」であるわけだが、観光という行動が単にレジャーにとどまるわけではなく、啓発に溢れ、有益な示唆に富むことを感じ取っていただければ幸いである。
本書は全体としては以下の構成をとっている。まず初めに、1章で世界遺産制度の概略とダークツーリズムの考え方に触れた後、2章からはテーマ別に世界遺産を対象としたダークツーリズムの旅が始まる。2章は、ダークツーリズムを語る上で絶対に外すことのできないアウシュビッツ強制収容所を掘り下げる。3章は産業遺産を扱っているが、世界の様々な工業化の跡を俯瞰的に比較することで、産業革命がもたらした影の部分について考察したい。4章は「島」がテーマである。島の旅は楽しい思い出になりそうであるが、経済システムから考えてみると非常に生産性の低い存在と言える「島」は、有史以来多くの辛酸を嘗めてきた。5章は、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」を主たる対象とし、世界遺産制度が持つ問題点や疑念に関して分析した。6章は自然災害を扱っており、日本では多くが撤去されつつある震災遺構に関し、実は世界遺産になりうるポテンシャルがあることを強調した。7章は、2020年における新型コロナウイルスの猛威を踏まえ、終章として今後の世界遺産についてどう考えていくべきかという点から、全体をまとめている。
付章の「カリブの旅」は、私の長期アメリカ出張の合間にとった休暇の紀行文である。もちろんこの章もダークツーリズムと世界遺産の関係性について考えている。但し、「旅」そのものは非常に楽しく、積極的に出かけてほしいという願いを込め、軽い筆致での叙述となっている。
本書を読まれるにあたっては、1章から始めることを勧めたいが、細かい制度などに拘らず、まず世界遺産という仕組みの大枠を掴むことを念頭に置かれたい。その後、2章のアウシュビッツについては、世界中のダークツーリズム研究者が必ず一度は調査したい場所であるので、ここまでは順番通り進んでいただき、3章から6章は、お好きなところを先に読んでいただくというので良いであろう。各章はテーマごとに独立しているので、ご自身の関心や知識が深い分野から向き合ったほうが、理解が早いと思われる。
それでは、まず1章において現在の世界遺産制度の概略を見た上で、旅に出てみることにしよう。
(「はじめに」より)
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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