「離脱る」(『探偵ガリレオ』第五章)では、より直接的に、
湯川は答えず、たっぷり時間をかけて、マグカップの中のさほど旨くもないコーヒーを飲んだ。
と書かれている。いずれにしても、決して褒められた味でないことは、はっきりしている。
※ただし例外として、こんな局面では、インスタントコーヒーもまた格別の味になるようだ(「離脱る」 『探偵ガリレオ』第五章)。
草薙はそういってコーヒーを飲んだ。いつもながら事件が解決した後だと、インスタントでも旨かった。
では、湯川は相当な味音痴なのか? 「操縦る」(『ガリレオの苦悩』第二章)で大学時代の恩師に、
「大丈夫だ。味にうるさいのが一人いるが、本当にわかっていってるんじゃない。理屈をこねまわしているだけだ」
と言われてしまっているが、湯川は意外にも、研究室の外では上等なコーヒーも飲んでいる。「夢想る」(『予知夢』第一章)で、事件解決後に湯川が草薙を誘ったこんなやりとりを見れば、それがわかる。
「うまいブルーマウンテンを飲ませる店がある」
「この近くかい?」
「等々力だ」
「いいね」
また、コーヒーなら何でもいいわけではなく、「絞殺る」(『予知夢』第四章)で、待ち合わせ場所であるビジネスホテルの喫茶室に後からやってきた湯川は、「コーヒーは飲まなくていいのか」と草薙に問われ、
「遠慮しておこう。この匂いから推定すると、さほど上質な豆は使っていないらしい」鼻をひくつかせてから湯川は歩きだした。
ときっぱり断っている。これには、
いつもはインスタントコーヒーのくせにと思いながら、草薙は後を追った。
と、草薙に心のうちでやり返されている(この草薙の、インスタントコーヒーのくせにというひそかな揶揄は、『聖女の救済』にも登場する)。また、研究室の外では常にコーヒーを飲んでいるわけではない。『聖女の救済』には、
待ち合わせをしたファミリーレストランで紅茶を飲んでいると、すぐに湯川が入ってきた。薫の前に腰を下ろすと、ウェイトレスにココアを注文した。
「コーヒーじゃないんですか」
「さすがに飽きた。君といる時も二杯飲んだしね」湯川は口をへの字にした。
というシーンもある。
そして実は湯川自身、研究室で出すインスタントコーヒーがそう美味しくないことはよく理解しているのだ。『容疑者Xの献身』でのこんなシーン。
「まあ、そう焦るなよ。コーヒーでもどうだ。自動販売機のコーヒーだけど、うちの研究室で飲むインスタントよりはうまいはずだぜ」湯川は立ち上がり、ソフトクリームのコーンを近くのゴミ箱に投げ捨てた。
スーパーの前にある自販機で缶コーヒーを買うと、湯川はそばの自転車に跨って、それを飲み始めた。
なんと、自動販売機のコーヒーより研究室のインスタントコーヒーの方が美味しくない、と言い切っているのだ。
ではなぜ湯川は、インスタントコーヒーにこだわるのか。湯川は元来、科学者らしく気になったことは徹底的に追究する性格で、帝都大学物理学科時代の友人にも、
「とにかく、やたらどんなことでも勉強するやつだったからな」安田がいう。
「インスタントコーヒーの歴史を調べてたこともあった。自分で作ってみて、やっぱり買ったほうが合理的だ、とかいってた」
などと噂されていた(「操縦る」『ガリレオの苦悩』第二章)。学生時代、自分でインスタントコーヒーを開発していたことにも驚きだが(そして、合理的だという理由で結局は市販品の購入に切り替えたのも湯川らしいが)、このインスタントコーヒーの歴史については、草薙の前で諳んじてみせたことがある(「転写る」(『探偵ガリレオ』第二章))。少々長いが引用しよう。
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