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「エヴァ」の人類補完計画は“グノーシス主義”、「君の名は。」は“聖霊”を象徴… 中世哲学者が語る、日常生活と哲学の“意外な”関係

「エヴァ」の人類補完計画は“グノーシス主義”、「君の名は。」は“聖霊”を象徴… 中世哲学者が語る、日常生活と哲学の“意外な”関係

山内志朗さんインタビュー


ジャンル : #随筆・エッセイ

ラーメンにはカントが潜んでいる

 それに我々は日常的に、哲学と同じことをやっているんじゃないかとも思うんです。例えば、ラーメンとカントについて考えてみましょう。

 ラーメンを食べて、美味しいと感じたとしますよね。ここで、「美味しさ」を感じる条件を遡って考えてみるんです。ラーメンを目で見ても、「美味しい」と紙に繰り返し書いても、「美味しさ」は感じられない。「美味しさ」を感じるためには、何かを口に入れる必要がある。じゃあ、その何かは食べられるもので、適切な温度や水分があって、味があって、毒がなくて……と「美味しさ」を成り立たせる条件をあげていくことができます。

 私たちは初めて食べるもの、味を知らないものでも、「美味しさ」を感じることができます。それは今話したような「美味しさ」の条件が存在するからではないか。そもそも、人間は全く同じ経験はしていなくても、相手の話を理解して、コミュニケーションを取ることができますね。それは、異なる経験をしていても、人間が同じ知識を導くことができるからではないか。同じ知識を導けるのは、何かを経験した時にそれを理解する仕組みを人間が共通して持っているからではないか。

 その仕組みを考えていったのが、カントの『純粋理性批判』なんですよ。大学で哲学科に入ると、カントの理論を叩き込まれるんですが、例えば、なんで時間と空間を感性論で扱うのかなんて最初は全然わからないんですよ。でも、この「感性」は人間の持つ共通の仕組みで、それを成り立たせる条件を探って抽象化すると、時間と空間が出てくるだけなんです。

 ラーメンの美味しさがどうやって成立しているのか考えることと、カントの『純粋理性批判』は、可能性の条件を遡っていく、という点で同じなんです。ラーメンの美味しさを哲学的に表現したって、おいしくならないし、麺が伸びてしまうから、普段はいちいちその思考を言語化しないだけなんです。

アニメと哲学がつながるのは自然なことなんです

――本書の中で「エヴァ」が大きく扱われているのも、先生にとっては自然なことなのでしょうか。

 日常生活と哲学が私の中でごく自然につながるように、アニメと哲学も私にとっては別物ではないんです。「新世紀エヴァンゲリオン」は1995年にテレビで放映されていたとき、流行っているからと見てみたんですよ。すると、グノーシス主義という主張と重なるところがあった。グノーシス主義では、世界を神による創造以前、人類が生まれる前に戻す必要があると考える。この世の中に存在する善だけでなく、悪も神が創造したものだと考えるのです。「エヴァ」の人類補完計画が目指すものと重なりますよね。

 それですぐに、授業の中で関係性に触れてみたら、学生の食いつきがすごくよかったんです。哲学の授業って、大抵生徒は教室の後ろの方にしかいないんですが、最前列に来て色々と質問するんですよ(笑)。でも当時は、こんなに「エヴァ」に踏み込んでいくことになるとは思っていませんでしたね。

単行本
わからないまま考える
山内志朗

定価:1,980円(税込)発売日:2021年10月22日

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  • 『リーダーの言葉力』文藝春秋・編

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