大矢博子の収穫 十冊
『化け者心中』(蝉谷めぐ実/KADOKAWA)
『黒牢城』(米澤穂信/KADOKAWA)
『もろびとの空 三木城合戦記』(天野純希/集英社)
『伊達女』(佐藤巖太郎/PHP研究所)
『くちばみ』(花村萬月/小学館)
『身もこがれつつ 小倉山の百人一首』(周防柳/中央公論新社)
『流転の中将』(奥山景布子/PHP研究所)
『星落ちて、なお』(澤田瞳子/文藝春秋)
『高瀬庄左衛門御留書』(砂原浩太朗/講談社)
『泳ぐ者』(青山文平/新潮社)
※文章登場順
古代から戦国、幕末まで新人もベテランも大豊作
いやあ、今年の歴史・時代小説は実に面白い! 新人のデビュー作あり、他ジャンルからの初挑戦あり、かと思えばベテランの貫禄の一冊あり。芸道小説もあれば本格ミステリもある。滋味溢れる市井の物語がある一方で、壮絶な歴史を描く作品もある。豊作だ大漁だ。
どこから紹介すべきか。うん、やっぱり今年大注目にして大収穫の新人からいこう。蝉谷めぐ実『化け者心中』だ。
時は文政、江戸の芝居町。狂言作者や役者たちが集まる中、誰かが鬼に食べられ、その鬼は食べた人物になりかわったらしい。いったい誰が鬼なのか?
その謎を解くのが、足を切断して舞台に立てなくなった元女形の田村魚之助。彼は鬼探しの過程で、役者たちが抱える秘密をひとつずつ暴いていく。露(あら)わになる妄執の数々。妖艶にして凄絶な芸道小説である。
現代ミステリの人気作家・米澤穂信が初めて挑んだ歴史ミステリ『黒牢城』にも驚かされた。信長に反旗を翻した荒木村重を説得するため使者として使わされた黒田官兵衛。だが村重は官兵衛を有岡城の土牢に閉じ込めてしまう─というのは有名な話。ところが本書では、その後有岡城内で起きた事件の数々を、官兵衛が土牢にいながらにして解き明かす安楽椅子(ぜんぜん安楽ではないが)探偵ものに仕立てたのである。
密室殺人や首探しなど架空の事件が綴られるが、そこから浮かび上がるのは、なぜ村重は有岡城を脱出したのかという歴史の謎だ。その謎を解くことで、著者は戦国時代とは何かを浮き彫りにした。
戦国時代ものとしては、天野純希『もろびとの空』も印象的だ。播磨平定を目指す羽柴秀吉が、織田方を離反して毛利についた別所長治の居城・三木城を兵糧攻めにした。食べ物がなくなり、地獄のような様相を呈す城内。極限状態において人はどこまで尊厳を忘れずにいられるか、あるいは、人はどこまであさましくなれるかを赤裸々に描いた。
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