半藤一利による「歴史探偵」シリーズ、第三弾。~開戦から終戦まで~
- 2021.12.30
- ためし読み
第一章は一九八四年に「埼玉県自治研修所 埼玉県市町村職員研修協議会」で行われた講演をもとに、著者が手を加えたものである。
原題 太平洋戦争下の提督たちのリーダーシップ
四十年のサイクル
日本の歴史というものをずーっと眺めますと、四十年という区切りがまことに面白い。四十年間で区切って歴史をみてみますと、非常に面白いことがわかってまいります。
アメリカのペルリ提督が、日本の幕末に浦賀にまいりました。そして、東京湾に入ってきて、強引に日本とアメリカとの間の和親条約を結ぶわけです。翌々年にハリス提督が下田にまいりまして、現在でいう大使館をつくって、日本との間に修好条約を結びました。これが朝廷の勅許も下りて正式のものとなる。慶応元年(一八六五)です。その年から、日露戦争が終わって、大勝利で日本が勝つまで(明治三十八年=一九〇五)が、四十年です。この四十年間というのは、作家の司馬遼太郎氏の言葉を借りて言えば、日本がまさに、坂の上の雲を目指して、坂の上まで駆け上がっていって、近代帝政国家になった四十年間だと思われます。そして、日本は、世界の五大強国の中にはいり、世界の注目を浴びる国になった。
その日露戦争が終わって、一九四五年に太平洋戦争で負けるまで、ちょうどまた四十年間になります。これは、明治人がつくり上げた近代国家というものを、その後の日本人が、坂道を転げ落ちるように転げて、元の木阿弥にしてしまうという過程ではないかと思います。ということは、維新いらい四十年かかってつくり上げた近代国家というものが、いかに矛盾に満ちたものであったか、底のほうに、大きな誤ちを抱えながら、坂道を駆け上がったのだということの証拠じゃないかと思います。そういう矛盾とか、欠点とか、錯誤が露呈して、その後の四十年間で、坂道を転げ落ちたということです。
そして、戦争が終わってから、来年がちょうど四十年になります。この四十年間という年もまことに面白い年で、その坂道を転げ落ちた日本が、もう一ぺんスタートから出直して、まさに新しい近代民主国家をつくってきたという四十年間ではないかと思います。自由民主とか、高度成長とか、スローガン的な言葉が沢山ありますが、そういう言葉とは別に、日本人の中に、しっかりとした国と人を思う心があって、新しい平和な国をつくろうということで、四十年間かかって、営々としていまの日本を築き上げてきた。
ところが、この四、五年前ぐらいから、もう皆さん方も、身にしみて感じておられると思いますが、その戦後日本も、何となしにガタが来ているのではないか。それは、政治的にも、経済的にも、文化的にも、精神的にもいえるようです。若干以上のガタが来ているのではないか。ということはまさに、変わり目が来つつあるということではないかと思います。
新しい四十年が来年から、もしかすると始まるかもしれません。それは、電子工学の時代であるのか、あるいは輝かしい未来であるのか、あるいは宗教心・信仰心も、ヒューマニティも、その他のことを全部失った、我利我利亡者ばかりの、まことに寂しい人間の時代であるのか、それはわかりませんが、新しい四十年が始まろうとしています。
歴史というのは、そういう具合いに、四十年ごとに区切ってみても、仕方のない連続的なものなのですが、ある種のものの見方からすれば、そういう連続の中の断絶と申しますか、一ぺん区切って考えてみると、歴史が、非常によくわかるというところがあるのではないかと思います。
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