『心霊電流』(原題「REVIVAL」)はスティーヴン・キングが二〇一四年に発表した長編。峯村利哉による邦訳が二〇一九年に文藝春秋から上下巻で刊行された。これ以後にも、次男オーウェン・キングとの共作による『眠れる美女たち』(二〇一七年)、『アウトサイダー』(二〇一八年)がすでに発表されている。一九四七年生まれのキングは現在、七十代半ばにあるが旺盛な執筆力に衰えはないようだ。本作も単行本の帯に麗々しく飾られた惹句「恐怖の帝王、久々の絶対恐怖の物語」の大風呂敷を裏切らず、むしろ風呂敷を破る勢いの興奮をもたらす力作で大いに堪能した。その保証済みのスタンプをここで捺してもいい。
始まりはキングおなじみのメイン州にあるひなびた小さな町から。語り手であり主人公の「僕」ジェイミー・モートンは六歳。両親と一女四男の末弟という大家族に育つ。時代は一九六二年とあるから、一九五六年生まれの少年だ(一九五七年生まれの私とほぼ同年)。誕生日にプレゼントされた軍隊のおもちゃに興じる平凡な少年ジェイミー。その運命を変える大きな出来事がここで起こる。町の教会に赴任した若き牧師チャールズ・ジェイコブスは、美しい妻パッツィ(パトリシア)とまだ「おむつ」の小さな男の子を連れていた。モノクロの町に、誰もが憧れるような光り輝くテクニカラーの一家の出現だ。
ジェイミーは牧師の家を初めて訪れた日、車庫に招き入れられる。電気いじりが趣味のジェイコブスがこっそり見せてくれたのは、バッテリーを背負い、「静かの湖」を渡る電動のイエス像だった。彼は少年に電気のすばらしさ(「天からの贈り物」)を説き、「スイッチをひねるたびに、まるで神になったような気分を味わえる。君もそう思うだろう?」と告げるのだった。これが伏線となるセリフと気づくのはずっと後。初老となった「僕」ジェイミーが、懐かしき故郷の町のできごとを回想するスタイルと雰囲気は、映画化された『スタンド・バイ・ミー』を想起させる。「絶対恐怖の物語」の幕開けは三年後。一九六五年十月、雲ひとつない水曜日に、牧師を悲劇が襲う。妻と子どもが交通事故で無残な死を遂げるのだ。凡手ならその「死」を伝聞であっさり伝えるだけにとどまるだろう。描写王キングは違う。
「パッツィ・ジェイコブスが使えるのは一本の腕だけだった。なぜなら、もう片方の腕は肘から先がちぎれてしまっていたからだ。顔からは勢いよく血が流れ落ちていた。はがれた頭皮が肩口へ垂れ下がり、血まみれの髪の一房一房が、秋のそよ風に揺れている。飛び出した右の眼球も、頬のところで揺れている。彼女の美しさは一瞬にして引き裂かれていた。美とは儚いものだ」
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