- 2022.02.01
- インタビュー・対談
ステイホームのお供に! 2021年の傑作ミステリーはこれだ!【前編】<編集者座談会>
「オール讀物」編集部
文春きってのミステリー通編集者が2021年の傑作をおすすめします。
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#エンタメ・ミステリ
★豪腕のエンタメ『機龍警察』
N 「柄の大きさ」という点では、月村了衛『機龍警察 白骨街道』(早川書房)も読み逃せませんね。
KU 短編集を含めれば7作目となる大河シリーズですが、本作から読み始めることもできますし、とにかくべらぼうに面白い。今回はミャンマー辺境を舞台に、第二次大戦下の日本軍のインパール作戦を想起させるような死闘が繰り広げられます。ここ数年、月村さんは昭和史をテーマにミステリーを書かれていましたが、過去の歴史を現代に重ね合わせる手法が「機龍警察」に活かされたのか、と驚きました。
昨年の2月、ミャンマー国軍によるクーデターがありましたよね。本書はクーデター以前のミャンマーを舞台にしていますが、クーデター後に何が起きたかを知っている私たちが読んでも、違和感なく「現在のミャンマーの物語」として読める。そういう圧倒的なリアリティが担保されているところが、社会派ミステリー作家としての月村さんの筆力だと思います。シリーズ前作『狼眼殺手』(早川書房)はポリティカルサスペンスで、戦闘要素は控えめでしたよね。今回は、日本国内で起きていることはポリティカル小説として、ミャンマー編は冒険小説、そしてメカニックなロボット小説として「メタルギアソリッド」みたいな読み心地を楽しめる。非常に総合力の高い作品になっています。最新刊がいちばん面白いって、シリーズ作品を作っていく上でものすごいことですよ。
N 「機龍警察」は前作刊行から4年ほど間隔があきました。その間、KUさんがおっしゃるとおり、月村さんは東京五輪、豊田商事事件、大蔵省スキャンダルなど、いわゆる昭和・平成の大事件をベースにして、国の根幹を捉えるタイプの小説に取り組んできました。これらは一種の「全体小説」の試みなのかなと思ったのです。現在の私たちを形づくった、少し前の「日本の総体」を様々な角度から描こうとしたんじゃないか、と。こうした石川達三さんとか山崎豊子さんみたいな試みって、最近はあまり作例がないわけですけれども、月村さんはエンタメ作家、スリラー作家としてのストーリーテリングやキャラ作りの技術を駆使し、1作じゃなくて複数の作品をまとめることで全体小説的なものを作ろうとしたのではないか。そして、そのチャレンジから得た収穫を「機龍警察」シリーズに流し込んだのではないか――。
『白骨街道』を通して、月村さんは「世界の中の日本」を浮き彫りにしようとしているように見えます。パースペクティブが大きいし、その大きいパースペクティブを「面白い物語」に落とし込む豪腕もある。やっぱりすごいエンタメ作家だなと実感しました。
K これまで「機龍警察」を読んだことがなかったけれども、『白骨街道』を読んで「めちゃくちゃ面白い!」と興奮している編集部員がいましたね。もし「いまさらシリーズに入れない」「出遅れた」と思っている方がいたら、「単体でも楽しめますよ」とおすすめしたいです。
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