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ステイホームのお供に! 2021年の傑作ミステリーはこれだ!【前編】<編集者座談会>

ステイホームのお供に! 2021年の傑作ミステリーはこれだ!【前編】<編集者座談会>

「オール讀物」編集部

文春きってのミステリー通編集者が2021年の傑作をおすすめします。


ジャンル : #エンタメ・ミステリ

★サリンジャー作品の真相とは!?

K この流れで紹介してよいかどうかわからないですけれど、さっきKUさんと「面白かった!」と意気投合したので、竹内康浩・朴舜起『謎ときサリンジャー 「自殺」したのは誰なのか』(新潮選書)をおすすめします。はっきりいって、2021年に読んだ中でもっとも強烈に面白かった“ミステリー”はこれなんです。

『謎ときサリンジャー 「自殺」したのは誰なのか』(月村了衛/新潮選書)

司会 全然知らなかった……。どういう本なのですか?

K サリンジャー作品って、これまで「面白い」と思いつつ、いまいちピンとこないところもあったのですが、「なぜピンとこないか」というと、「解けない謎が書かれてる」と思っていたんですね。ところが本書は、これまで「解けない」「読者の想像に委ねられている」と思われていた作中の謎を、きわめてクリアに解き明かしてくれる。

サリンジャーの短編「バナナフィッシュにうってつけの日」(『ナイン・ストーリーズ』収録)の分析がメインなんですけど、「バナナフィッシュ」って、妻と休暇を楽しむ男の日常が淡々と描かれたと思ったら、突然、男が自分の頭を拳銃で撃ち抜いて終わるという謎めいた話なんです。ところが本書を読むと、実はサリンジャーの作品群の中でこの自殺の意味が示唆されていることがわかる。それどころか、そもそも「本当に死んだのは誰?」というところから問い直されなければならない小説だということがわかってくるんです!

サリンジャーの小説は、一般に難解とされています。難解であるがために文章の背後に何か大きな世界が広がっている感じがして、そこに魅力を感じる人も多かったと思うんですけど、その背後に「広がっている感じがする」と、これまで私たちがぼんやり漠然と捉えていたものを、『謎ときサリンジャー』は1つ1つ、原文を丁寧に検証することで明確にしていきます。すると、読者が勝手に「謎」と思っていたところが実はそうではなく、むしろ1つの叙述が二重の意味を持っていたり、他の真相を示唆する伏線だったりしたことがわかる。「ああ、そうなのか! すべてが符合する!」と、ミステリーの解決編のように、稲妻に打たれるような快感が続くんですよ! 読みながら「これはヤバイ本だ……」って背筋が震えて、どうしてこの本がサリンジャーの生前に出なかったんだろうと思ってしまったほどでした。

KU まさにKさんのおっしゃるとおり、本書にはいくつも面白いポイントがあるんですけど、読み終えて、サリンジャーの小説であっても「徹底的にテキスト論で読む」ことが大事なんだなとあらためて感じました。サリンジャーのような“奇人”と思われている作家の場合、小説を読んでいてもついつい作家サリンジャーのイメージがちらついて、一読では理解が追い付かない展開に出くわしても「ま、サリンジャーだし」で勝手に納得していたところがあると思うんです。でも、実はそうではなかった。「テキストに忠実に読む」ことでまったく新しい世界が見えてくるし、1文1文を緻密に読み解くことで、結果的に「作家が本当はどういう人なのか」も浮かび上がってくる。そういう「読み」の基本を教えてもらえる本でもある気がします。

司会 テキストに忠実に読むと、これまでわからなかった謎の解明がもたらされるということ?

K そう! もたらされます! 少なくとも「バナナフィッシュ」については完璧にもたらされる。さらにすばらしいことに、謎が解かれることでサリンジャーのテキストへの信頼感が生まれるんですよね。書かれていることにはすべて理由があって、1語、1語、考えて書かれているという信頼感が。「こういうふうに本って書かれるべきなんだなあ」と思いましたし、わかってくれる人がいなくても、書き手は「きちんとすべてを整合させて書かなくてはならないのだ」とも感じました。編集者必読だと思った1冊です。

KU 著者の竹内康浩さんは「誰がハックルベリー・フィンの父を殺したか?」で、アメリカ探偵作家クラブ賞(エドガー賞)評論・評伝部門の、日本人最初の最終候補になった方ですね。

K その論文をもとにした『謎とき「ハックルベリー・フィンの冒険」』も新潮選書から出ています。こちらもおすすめですよ。

電子書籍
週刊文春ミステリーベスト10 2021
週刊文春ミステリーベスト10班

発売日:2021年12月09日

単行本
琥珀の夏
辻村深月

定価:1,980円(税込)発売日:2021年06月09日

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  • 『赤毛のアン論』松本侑子・著

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