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ステイホームのお供に! 2021年の傑作ミステリーはこれだ!【前編】<編集者座談会>

ステイホームのお供に! 2021年の傑作ミステリーはこれだ!【前編】<編集者座談会>

「オール讀物」編集部

文春きってのミステリー通編集者が2021年の傑作をおすすめします。


ジャンル : #エンタメ・ミステリ

★「変格」ミステリーへの注目

A 年末に出たばかりの新刊ですが、倉野憲比古さんの『弔い月の下にて』(行舟文化)を紹介させてください。大学院生の夷戸武比古(いど・たけひこ)、友人のホラー雑誌編集者、喫茶店のマスターが、九州の海に遊びに行き、ボートに乗って「あの島に行ってみよう」と、軽いノリで沖に出る。すると、あやしい島にあやしい館が建っていて、奇妙な人たちが暮らしているという、「孤島もの」ミステリーになっていくわけですね。

『弔い月の下にて』(倉野 憲比古/行舟文化)

上陸した島では謎の兄弟が待ち受けていて、いきなりボートを沈められ、携帯電話も捨てられ、その兄弟が執事をしている「淆亂(バベル)館」へと連行されます。館には5人の先客がいて、主人公たち3人も一緒に館内に監禁されてしまうんです。先客らの説明によれば、かつて二枚目俳優として一世を風靡した男が10年前に突然、煙のように失踪して行方不明になっている。その「消えた俳優」がどうやら館の主人らしい。

先客たちは、皆、館の主人に会いたくて島にやってきたんですね。「消えた俳優」のせいで交通事故に巻き込まれて顔に大けがを負った元役者の演出家。同じく「消えた俳優」との醜聞でバッシングを受け心を病んだ元恋人の女優。彼らと同じ劇団の若手俳優。そして「消えた俳優」を追う週刊誌記者とカメラマンのコンビ――。彼らが館内で「主人に会わせろ」と談判をしているところに主人公たち3人も紛れ込んでしまったわけですが、謎の兄弟執事は、頑として会わせない。押し問答している最中に、主人は部屋の中で殺されてしまうのですね。そして「誰が殺したのか?」の推理合戦が始まるという、外枠だけ見ると典型的な「孤島の館ミステリー」なんですが……。

司会 面白そうなシチュエーションですよね。

A ところが倉野さんは、本格ミステリーに対して「愛憎を半ばにする」書き手で、自らを「変格ミステリー作家」と称している人なんです。そのため本書も、普通の推理合戦とはだいぶ趣を異にする、異常心理、隠れキリシタン信仰、オカルト伝説といった怪奇幻想趣味が横溢する展開になっていきます。

司会 「変格ミステリー」って、具体的にはどんなもののことをいうんでしょう? 

A もともとは戦前の日本ミステリー黎明期、本格探偵小説に当てはまらないもの、SFやホラー、冒険小説、ファンタジーから奇妙な味の小説などなどを一括りにして「変格探偵小説」と呼んだようです。要するに「論理的に謎が解明されない探偵小説っぽい小説」ということでしょうか。具体的な作例を挙げるなら、いわゆる「黒い水脈」と呼ばれる小栗虫太郎や夢野久作らの諸作や、あるいは竹本健治さんの『匣の中の失楽』といった作品をイメージしていただければいいのかなと。

昨年の夏、竹本健治編『変格ミステリ傑作選【戦前篇】』(行舟文庫)という文庫アンソロジーが『弔い月の下にて』と同じ版元から出ています。背景を説明しますと、倉野さんが「新変格」を提唱し、「変格探偵作家クラブ」を作りたいと呼びかけたのに、竹本さんが賛同して、一昨年とうとう「変格ミステリ作家クラブ」が設立されたのですね。最初は竹本さんと倉野さんおふたりだけの集まりだったところ、ためしに会員を募集してみたら「私も」「私も」とどんどん入会者が増え、いまや新本格ミステリー作家の組織「本格ミステリ作家クラブ」よりも人数が増えちゃったそうなんです(笑)。

『変格ミステリ傑作選【戦前篇】』(竹本 健治編/行舟文庫)

司会 ウェブサイトによれば、メンバー数は現在235名だそうで、すごい勢いですね。

A その流れで刊行されたのが『変格ミステリ傑作選』で、幸い評判もよく、【戦前篇】に続いて【戦後篇】を2巻本で出すことも決まったらしいです。この【戦前篇】には、漱石に始まり、谷崎、芥川、乱歩、横溝、木々高太郎、海野十三、川端康成らの短編が収められています。2021年は「新変格」が産声をあげた年として、ミステリーの歴史に記録されることになるかもしれません。

N 昔、鮎川哲也さんの編んだ『怪奇探偵小説集』という名アンソロジーがありましたね。これも謎解きミステリーの枠に収まりきらないホラーや幻想風味のある変わった作品を集めたもので、竹本さんの「変格」アンソロジーと通底するものがあるように思いました。

すごくざっくりした僕の理解でいうと、乱歩の批評(「類別トリック集成」など)が「本格」で、乱歩の実作――「陰獣」とか「パノラマ島奇譚」とか――が「変格」なのだろうと思います。本格ミステリーのクールな論理性を知悉していた乱歩なのに、いざ書き始めると変態的な要素が出てきてしまう。そういう「過剰なもの」がくっついてくる感じ、といえばわかりやすいのではないでしょうか。横溝でいうと、戦後の金田一耕助シリーズが「本格」だとすれば、戦前の、たとえば「鬼火」などは「変格」でしょうね。金田一ものでも『三つ首塔』あたりは「変格」に入るかも。「変格」の「変」は「変態」の「変」といっちゃってもいいかもしれない。

A 『変格ミステリ傑作選』には、乱歩だと「目羅博士の不思議な犯罪」、横溝は「蔵の中」が採られていますね。

K なるほど、具体的な作品を挙げてもらうとイメージしやすいです。

司会 昨年のオール讀物7月号(創刊90周年記念号)で「『オール讀物』と推理小説の90年」と題した座談会を開催したのですが、戦前のオールの目次に小栗や夢野、久生十蘭らが何度も登場するのを見た戸川安宣さんが、「僕らが大学生の頃には『異端の作家』と思われていたマニアックな書き手が、そろってオールに小説を書いている」とビックリしていたんですね。

要するに、現在のミステリーマニアの価値観からすると、戦後に市民権を得た本格ミステリーの作家が「正統」派で、『黒死館殺人事件』の小栗や、『ドクラ・マグラ』の夢野らは「異端」に見える(現に、戸川さんが若い頃、後者に属する作家の作品はほとんど新刊書店で入手することができなかったそうです)。ところがそうした作家が戦前にはオールのような普通の大衆小説誌に登場していた。ということは、戸川さんいわく、戦前の同時代的な感覚では「もしや僕らが思っていた以上に小栗などは当時、大衆的な作家と認識されていたのかも」と。こうした戸川さんの着眼も、昨今の「変格」への注目、復権と通じるところがあるのではないでしょうか。

A 面白い見方ですね。松本清張の時代、本格ミステリーが社会派推理小説に駆逐されたという史観は、ミステリーの歴史を辿る時、つとに語られることですけれど、その前段に、実は、戦後の乱歩や横溝によって、あるいはその後に登場する鮎川哲也や高木彬光によって、戦前の過剰な「変格」探偵小説が「異端」「マニアック」のレッテルを貼られ、歴史の表舞台から消されてしまったのかも、と見る視点はいま大事かもしれません。倉野さんの『弔い月の下にて』は、こうした「変格」とは何であったかという歴史的な文脈でも楽しめる1冊だと思います。

司会 では、このへんでいよいよ話題の逢坂冬馬さん『同志少女よ、敵を撃て』(早川書房)の話題に――と思いましたが、紙面が尽きたので、続きは【後編】で!

【後編(後日公開予定)につづく】

電子書籍
週刊文春ミステリーベスト10 2021
週刊文春ミステリーベスト10班

発売日:2021年12月09日

単行本
琥珀の夏
辻村深月

定価:1,980円(税込)発売日:2021年06月09日

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