- 2022.02.07
- インタビュー・対談
「さらっと書いてあるけれど、“天の沼矛”はどこから来たのか?」日本の神話に着想を得た、新・異世界ファンタジー
「週刊文春」編集部
著者は語る 『神と王 亡国の書』(浅葉なつ 著)
出典 : #週刊文春
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
累計200万部を超えるベストセラー『神様の御用人』シリーズ。その著者、浅葉なつさんによる、壮大な異世界ファンタジーがこの冬、誕生した。新シリーズ『神と王』は、日本の神話からインスピレーションを受けているという。
「学生時代から神社仏閣が好きで、各地を巡っていました。その過程で日本の神様についても調べていたので、昔から『古事記』や『日本書紀』を読んでいて。いつか小説のテーマにしてみたいと思っていました」
『神と王』は、国教の四神教を信仰する弓可留(ゆっかる)国の歴史学者・慈空が、逃亡先の宿で目を覚ますところから始まる。弓可留国は、隣国の沈寧(じんねい)に突如攻め入られ滅亡。慈空は、兄弟同然に育った王太子・留久馬(るくま)から、国の宝珠「弓の心臓」を託されていた。しばらく宿に潜伏するが、「弓の心臓」を探す謎の男・風天と、手首に不思議な生き物を飼っている日樹(ひつき)に追われ、慈空は人間を襲う病狂の木が発生した森に逃げ込む。病変した木に襲われているところを、追手のはずの風天たちに助けられ、行商集団「不知魚人(いさなびと)」の野営地に運ばれて治療を受ける。風天は、大国・斯城(しき)の「さるやんごとない御方」の命で、「弓の心臓」と、対になる「羅の文書」を探しているという。すでに隣国が「羅の文書」を手に入れているらしいことを知った慈空は、風天たちと沈寧への侵入を計画する。一方沈寧では、王の後継を巡って、王太女・薫蘭と弟たちとが争っていた。
「2017年頃から構想を練り始めたので、執筆に丸4年はかかっています。私はオタク気質で、ゲームや映画・アニメも大好き。特に『刀剣乱舞』が好きなのですが、『バーフバリ』、『ファイナルファンタジー』、『十二国記』など、好きなものからたくさん影響を受けて、それが詰まっている物語だと思います」
本シリーズの特長の一つは、魅力的なキャラクターが多数登場すること。争いに翻弄されながらも、古代文字が読めるために宝珠の謎の鍵を握る慈空。強さと端正な容姿を兼ね備えるが、ファッションセンスが壊滅的な風天、天真爛漫な性格ながら謎めいている日樹、不知魚人の頭領の一族で、強靱な肉体と圧倒的な美貌の持ち主・瑞雲。そして王の座を欲する薫蘭など、物語の飾りとしてではない女性たちも多数登場する。
「ライト文芸出身なので、キャラクターを立てるのが得意というのはあります。今回、イラストレーターの岩佐ユウスケさんに主要キャラの4人のイラストを描いていただいたのですが、実は、慈空は始め、眼鏡をかけてなかったんです。でも上がってきたイラストを見たら眼鏡をかけていて、この方がいいねとなり、ゲラで全部書き直しました(笑)」
物語の序文で『古事記』から引用されているのは、伊耶那岐命、伊耶那美命が、天(あめ)の沼矛(ぬぼこ)を賜ったという箇所だ。
「さらっと書いてあるけれど、天の沼矛というのはどこから来たのか? と、以前から疑問だったのです。その謎を書いてしまえと、思い切りぶつけたのが『神と王』ですね」
第一巻「亡国の書」では、風天にまつわるある秘密が明かされる。巻頭に収録されている地図には、詳細が不明の国や、蔑まれている人々が住んでいるという未知の領域「梯子の闇戸(くらと)」が描かれている。
「そもそもこの世界はどこなのか。新・異世界ファンタジーと名付けていただきましたが、まだまだ書いていないことがあるので、色々予想してみてほしいです。第二巻も、今年の夏頃には出る予定です」
あさばなつ/四国生まれ。関西在住。2010年、第17回電撃小説大賞でメディアワークス文庫賞を受賞、『空をサカナが泳ぐ頃』でデビュー。他の著書に『山がわたしを呼んでいる!』『どうかこの声が、あなたに届きますように』など。