選択の積み重ねが人生を作る
――この小説の登場人物たちは、「もしあのとき別の道を選んでいたら……」と後悔の念に駆られて、kassiopeia(カシオペイア)にたどり着きます。武田さんが今までの人生で後悔していることってありますか?
学生時代に恋愛をしなかったことが心残りです(笑)。高校生のとき、友達と映画版『花より男子』を観に行ったんです。友達が「道明寺君かっこいい~!」とか言っているのを見て、まったく共感できない自分に愕然としました。
いまだからわかるのですが、「人にときめく」って訓練なんですよね。〇〇君かっこいい、とか〇〇さん素敵と思うことの積み重ねの延長線上に恋愛がある。私は25歳くらいになって、さて恋愛をしよう、と思ったけれどもときめく訓練をまったくしてなかったので(笑)、何をしていいのかわからへん、と途方にくれました。それ以外に後悔したことはありません。
――ええっ、本当ですか!?
もちろん人生の岐路はいくつかあって、その度に悩みます。やはりいちばん大きいのは、専業作家になるかどうかを決めるときでした。ちょうど大学4回生の時に『響け!ユーフォニアム』の第1期のアニメが放送されていたのですが、ずっと不安でしたね。専業作家になって食べていけるのかな、と。実際には杞憂でしたが。
もう一つはデビューの時です。私は日本ラブストーリー大賞の「隠し玉」という編集部チャンス枠で声を掛けてもらったので、刊行されるのも文庫本でした。そうすると、この先単行本のチャンスをもらえるかどうかもわからない。今回は断って別の賞に再応募しようかとも考えましたが、デビューしてダメならそのときまた考えればいいと腹をくくりました。いま考えると新人が生意気なことを考えていたと思うんですが、結果的には第2作の『響け!ユーフォニアム』が文庫で出たことでアニメ化も決まって……決断した時からは思いもよらぬ方向で、色々と上手く行きましたね。
――すごく思い切りのいい決断ですね。
私は結構心配性なところがあるんですが、チャンスがあったらやってみよう、の精神は大事にしています。というのも、実はそれが今回の小説のテーマでもあるからです。
――それはどういうことですか?
現代って選択肢が無数にあるじゃないですか。結婚する、しないとか恋愛をする、しない。進学はどうするか、仕事はどうか……選択することが多くて疲れすぎてしまう。しかも、特に失敗した場合は、自分が選ばなかった選択はとても魅力的に見えてしまう。それが生き辛さに繋がってるんじゃないかと思って。
でもよく考えたら、自分の選択で結果を完全にコントロールできることってあまりないと思うんです。結果が出るまでには運や環境などのたくさんの要因があるので、自分が関われる部分って実はあまり多くないような気がしています。何かを「選ぶ」ことが、結果を決めると思うことは錯覚だし、傲慢ですらあるかもしれません。何を選んでも成功するかもしれないですしね。私の場合は、どちらを選んでも成功する時は成功するし、失敗する時は失敗するからなんとかなるさ、といつも思ってますね(笑)。
とはいえ、私は選択を軽視しているわけではなくて、むしろ選択の積み重ねが人格を作ると思っているんです。だから選択することそのものが、人に変化をもたらすと考えていて、その面白さをこの小説で表現できていたら嬉しいです。選択の度に「これで自分の人生が左右されるぞ!」と身構えていると疲れてしまうので、選択そのものを楽しめるようになりたいですね。
武田綾乃(たけだ・あやの)
1992年、京都府生れ。2013年、日本ラブストーリー大賞最終候補作に選ばれた『今日、きみと息をする。』で作家デビュー。同年刊行した『響け! ユーフォニアム』はテレビアニメ化され人気を博し、続編多数。2021年、『愛されなくても別に』で吉川英治文学新人賞を受賞。その他の作品に『石黒くんに春は来ない』『青い春を数えて』『その日、朱音は空を飛んだ』「君と漕ぐ」シリーズ、『どうぞ愛をお叫びください』などがある。
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