- 2022.06.03
- 特集
『フェミニズムってなんですか?』刊行記念ブックフェア選書 フェミニズムの議論の蓄積に触れる23冊
文:清水 晶子
『フェミニズムってなんですか?』(清水 晶子)
ジャンル :
#ノンフィクション
#セクシュアリティ
セクシュアリティを直接扱うことは必ずしも多くなかったものの、『フェミニズムってなんですか?』は、ジェンダーとセクシュアリティとを相互に関連しつつけれどもどちらかに収束されることのない分析軸として捉えようとしたクィア理論を、ひとつの思想的な出発点としている。
セジウィックの『クローゼットの認識論』は、既に挙げたバトラーの著作に並ぶ、クィア理論の基本文献のひとつ。竹村和子の『愛について』は非常に難解ながら日本語圏のフェミニズム/クィア理論の著作としてもっとも優れた一冊に数えられるのは間違いない。
フェミニズム批評の書き手や読み手が増えつつある現在、日本語で書かれたクィア批評の優れた著作として村山敏勝の『(見えない)欲望へ向けて』は、あらためて広く読まれるべき本。
(10)竹村和子『愛について:アイデンティティと欲望の政治学』(岩波現代文庫)
(11)村山敏勝『(見えない)欲望へ向けて—クィア批評との対話』(ちくま学芸文庫)
(12)イヴ・コゾフスキー・セジウィック『クローゼットの認識論—セクシュアリティの20世紀』(外岡尚美訳、青土社)
ウィンターソン『オレンジだけが果物じゃない』、松浦理英子『親指Pの修行時代』はどちらも、「性的マイノリティのリアル」を描くのとはかなり異なるやり方で、ジェンダーやセクシュアリティ、身体や欲望についての読者の想像力を掻き乱し押し広げようとした、80年代から90年代にかけてのクィア文学の気分を色濃く伝える名作。
(13)ジャネット・ウィンターソン『オレンジだけが果物じゃない』(岸本佐知子訳、白水Uブックス)
(14)松浦理英子『親指Pの修行時代』(河出文庫)
#対談いただく/いただいた方のご著書
『フェミニズムってなんですか?』で対談をお引き受けいただいた長島さん、井谷さん、李さん、そして刊行記念対談をお引き受けくださった岡野さんのご著書。
長島有里枝『「僕ら」の「女の子写真」からわたしたちのガーリーフォトへ』は、女性がみずからを表象するというその事自体がどのようにして困難にさせられていたのか、その困難を名付け理解し、そこから「わたしたちのガーリーフォト」に向かっていく過程がどのようなものだったのかを、明らかにするもの。
「体育会系」から想像されるような強いジェンダー規範と「スポーツをする女性」に常に付き纏ってきたジェンダー撹乱性との間で、生の可能性がいかに切り開かれうるのか。この問題に取り組む井谷聡子『〈体育会系女子〉のポリティクス—身体・ジェンダー・セクシュアリティ』は、スポーツにおける性別が繰り返し話題になる現在、ぜひ読んで欲しい。
性的、民族的、あるいは国籍上のマイノリティ女性たちの日常を、説得力を持って描き出してきた李琴峰だが、ここではその説得力を保持しつつ、フェミニスト・ユートピア/ディストピア文学が紡ぎ出してきた豊かな想像力と鋭い現状批判との伝統にも連なる二作を。
近年注目される「ケア」論の中でも、トロントと岡野の『ケアするのは誰か?』はケアをはっきりと政治的課題として位置付ける明快な議論を提示し、優れた入門となっている。タイトルが示すように「ケアをする人」を中心に(そしてそれはしばしば女性に割り当てられてきたことも指摘される)政治を問い直す本書の議論を、伝統的には「ケアされる」側に割り当てられてきた立場からの議論、とりわけフェミニスト・ディスアビリティ研究の議論とどのように噛み合わせていくのかは、今後のフェミニズムの大きな課題のひとつだろう。
(15)長島有里枝『「僕ら」の「女の子写真」からわたしたちのガーリーフォトへ』(大福書林)
(16)井谷聡子『〈体育会系女子〉のポリティクス—身体・ジェンダー・セクシュアリティ』(関西大学出版部)
(17)李琴峰『彼岸花が咲く島』(文藝春秋社)、(18)李琴峰『生を祝う』(朝日新聞出版社)
(19)ジョアン・C・トロント、岡野八代(訳、著)『ケアするのは誰か?:新しい民主主義のかたちへ』(白澤社)
#このあと出てくる予定の本たち
6月のアーメッドを皮切りに、ぜひ手に取っていただきたいフェミニズムの本がこの先立て続けに翻訳されるので、最後にそれを。
『フェミニズムってなんですか?』に興味を持って読んでくださった方なら、必ずワクワクしていただけるはず。
アーメッドの『フェミニズムを生きるということ』は、フェミニズム理論の研究者でもあり非常に人気の高い書き手でもあるアーメッドの面目躍如の一冊で、学術的・理論的な議論を踏まえた上で、それをフェミニスト、とりわけマイノリティのフェミニストが日々直面する問題から浮き上がらせることなく、軽快でパワフルな語り口で論じていく。
スリニヴァサン『セックスする権利』もアーメッドと同じくマイノリティ・フェミニストである研究者の著作。フェミニズムの歴史を振り返りつつ、オンラインのフェミニスト・バッシングからポルノ、監獄フェミニズムの問題まで、現代の性の政治を論じた非常に興味深いエッセイ集。フェイ『The Transgender Issue』は、トランスジェンダー、正確には現在英国で起きているトランスジェンダーへのバッシングについて、レイシズムや植民地主義などまで射程に入れたインターセクショナルなアプローチで論じ、非常に高く評価された本。
ケイファー『Feminist, Queer, Crip』は少し後の出版になる予定だが、タイトルの示す通り、フェミニズム、クィア、そして障害について、そのいずれの視点も手放さないことでこれまでのそれぞれの領域での議論の問題点をきちんと修正しつつ、クリアに論じるもの。学術書ではあるが、フェミニズム/クィア障害論の極めて優れた入門書としてもお勧め。
(20)サラ・アーメッド『フェミニスト・キルジョイ:フェミニズムを生きるということ』(飯田麻結訳、人文書院、2022年6月予定)
(21)アミア・スリニヴァサン『セックスする権利』(山田文訳、勁草書房、2022年秋予定)
(22)ショーン・フェイ『トランスジェンダー問題:議論は正義のために(仮タイトル)』(高井ゆと里訳、明石書店、2022年秋予定)
(23)アリソン・ケイファー『Feminist, Queer, Crip(邦題未発表)』(井芹真紀子、井上友美、加藤旭人、葛原千景、高井ゆと里、番園寛也、山田秀頌訳、花伝社、2024年予定)
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