「本屋が選ぶ大人の恋愛小説大賞」は、大人がじっくり読める質の高い恋愛小説を発掘し、読者の皆様にひろく届けることを目的として創設されました。
本年度の選考委員は、川俣めぐみ氏(紀伊國屋書店横浜店)、大塚真祐子氏(三省堂書店成城店)、加藤ルカ氏(有隣堂)、沢田志郎(丸善お茶の水店)、山本亮氏(大盛堂書店)の5氏。「大人の恋愛小説とはいったい何なのか?」をめぐり、議論に議論を重ねた結果、大賞を選び出しました。その白熱の模様を全文お届けします!
なお候補作については、2021年10月1日から2022年9月30日に刊行された単行本の中から、北上次郎、瀧井朝世、吉田伸子の3氏の推薦をもとに、下記5作品が候補作に選ばれました。
『きみだからさびしい』(文藝春秋)大前粟生
『求めよ、さらば』(角川書店)奥田亜希子
『アナベル・リイ』(角川書店)小池真理子
『汝、星のごとく』(講談社)凪良ゆう
『恋愛の発酵と腐敗について』(小学館)錦見映理子
選考会に出席された書店員の皆さま(敬称略)
――「本屋が選ぶ大人の恋愛小説大賞」も、晴れて第2回を迎えます。前回の受賞作は島本理生さん『2020年の恋人たち』(中央公論新社)。この作品は、コロナ禍の東京の姿も捉えていました。今回はどのような一冊が選ばれるのでしょうか。どうぞよろしくお願いいたします。
山本 コロナに関しては、大盛堂書店が渋谷のスクランブル交差点の目の前にあるという場所柄、かなり影響を受けましたね。最近は表の人通りが増えていて、売れ行きが盛り返してきた状況です。イベントも積極的に行っています。
ここ一年を振り返って、特によく売れた本は麻布競馬場さんの『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』(集英社)です。Twitter発の作品で、文芸の面白い流れが生まれそうな予感がしています。こういった新しい潮流にもリーチしていきたいですね。
大塚 三省堂書店成城店は月刊「文藝春秋」が良く売れるお店で、比較的ご高齢のお客さまに支えていただいているという実感が、変わらずにありました。その中でも、他の年齢層に本を届けていくにはどうしたらいいか、と考えながら店頭に立っています。店頭の仕事とは別に、2022年から毎日新聞の文芸時評欄で、毎月3冊紹介する「私のおすすめ」を担当しています。面白い小説がたくさん出版されたこの一年、執筆という面でも充実していました。
加藤 秋に、有隣堂チェーン全体を見る、エリアマネジメント課という部署に異動になったのですが、書店員として横浜駅西口店に立っていた頃とは視点が変わり、街に書店があると自然に人が集まってくると実感しています。「本が売れない」と言われる状況にありますが、子どもたちは書店に児童書を買いに来て、年配の方は時代小説を買いに来る。週刊誌を欠かさず買われる方もいますよね。いろいろな店舗に足を運んで売り場づくりを考える仕事を通して、書店の力、本の力を再認識できました。
川俣 私は横浜店で店頭に立つ傍ら、紀伊國屋のYouTubeチャンネルにも、出演し始めました。おすすめ本紹介、作家さんへのインタビューや対談もやっていて、普段あまり本を読まない人にもおすすめできるような企画ができないかなと考えています。
小説自体は年々売り上げが落ちている印象がありつつ、同時に、売れる作品が突出して売れる、一極集中にも近い状態を感じています。幅広くまんべんなく出るようになるといいなと思っています。
沢田 丸善お茶の水店から、今回初参加になります。恋愛小説、実は守備範囲とは言えないのですが……この機会に、注目作のほかにも隠れた素晴らしい作品を売り伸ばすきっかけを作れたらと思い、参加を決めました。どうぞよろしくお願いいたします。
――第2回「大人の恋愛小説大賞」候補作は、3名の書評家、北上次郎さん、瀧井朝世さん、吉田伸子さんの推薦を基に、全5作に決定しました。同じカテゴリーの中でも、展開する恋愛模様は様々です。一作ずつお話を伺っていきます。
『アナベル・リイ』小池真理子
――主人公・悦子(えつこ)はアルバイト先のバー「とみなが」のママ・多恵子(たえこ)が熱を上げているライターの飯沼(いいぬま)に、密かに惹かれながら、彼の連れて来た千佳代(ちかよ)とは深い友情関係を築きます。しかし彼女は飯沼と入籍して間もなく、突然他界します。その後、飯沼と恋愛関係に発展した悦子の前に、千佳代の亡霊が現れるようになり……。小池さんの筆が光る幻想的な小説です。
山本 物語の端々で、飛び出す言葉の的確さに、何度もうなずいてしまいました。亡霊となる千佳代の存在に関する表現でも、素晴らしいフレーズがたくさんありました。世界観のあわいもすごく良くて、これまでの体験の永続性のようなものが描かれた内容も、とても面白かったです。
大塚 抑制の効いた文章で、作品全体のトーンが統一されていて読み応えがあります。私自身、映画や小説でもホラーに触れる機会がほとんどないこともあって、「怖い!」と思いながら読み進めました。
加藤 初め、恋愛小説と思って読んでいたら、途中から背筋が凍るような、怨念を帯びた雰囲気になってきますよね。やはり小池さんの書かれる作品ということで、読み進めるうちにどんどんと文章の面白さにはまっていきます。
川俣 普段ホラー小説はあまり読まないのですが、完全にそのカテゴリーに分類できる小説ではないと感じました。怖さがひしひしと伝わってくるところが、とても面白かったです。
加藤 帯にもある「幻想怪奇小説」という呼び方がぴったりですよね。装丁が見せているような、まさに灰色の世界がずっと続いていくような不思議な雰囲気があります。恋愛小説のジャンルにはくくれない作品でもあり、小説として強くおすすめしたいです。
山本 僕としては恋愛小説としても読めましたが、悦子と千佳代のシスターフッド的な側面から読んでいた部分がありました。むしろベクトルは、そちらに強く向いている気がします。
大塚 恋愛小説かどうかという点、私も迷いました。千佳代の気持ちとして、飯沼への愛情と情熱、悦子への信頼と友情とが、おそらくイコールと言いますか、唯一無二でありそしてどちらも等しく大切なものだったのだろうという展開があります。その中で、悦子への信頼のほうが際立ったように読み取れました。そこで、果たしてこれは恋愛なのか、と疑問に思って……。ですが、小説として本当に完成度が高くて、素晴らしかったです。
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