日本は昆虫の国である。全国各地に200以上の昆虫同好会があり、昆虫をテーマにした月刊誌が半世紀以上にわたって刊行され、ホームセンターで当たり前のように虫かごや捕虫網が売られており、カブトムシやクワガタムシの採集・飼育・繁殖法を解説した雑誌が書店に並んでいる国は、世界広しといえども、我が国だけである。
昆虫に関する書籍も数え切れないほど出版されている。近年は図鑑やハンドブックの種類も充実し、一昔前は誰も知らなかったような種でも、調べれば名前がわかるようになった。それぞれの昆虫が持っている「すごい」「ヤバい」「地味な」「残念な」生態も、愉快なイラストや美しい写真・動画で手軽に知ることができるようになった。
しかし、昆虫が持っているのは、名前と生態だけではない。全ての昆虫は、その発見にまつわるドラマ、採集者や研究者の武勇伝、収集家や飼育者の苦労話など、一言では語り尽くせない歴史を持っている。
しかし、それぞれの昆虫がどのような歴史を持っているか=いつ・どこで・誰によって発見され、どのような物語や逸話を持っているのかについては、図鑑やハンドブックにはほとんど載っていない。載っているのは名前・生態・全長・分布・発生時期程度である。
そうした情報だけでなく、個々の昆虫が持っている歴史、その背景にある人間との関わりを知ることができれば、より昆虫に対する理解と関心を深めることができるはずだ。
こうした考えに基づき、本書では、国内に生息する昆虫の中で特筆すべき歴史を持っているものを100種選定し、「日本百名虫」としてまとめた。
百名虫の選定基準は、以下の3つである。
第一の基準は、歴史のある種であること。古くから多くの昆虫愛好家や研究者の関心を集めてきた種、後世に語り継がれるべき興味深い逸話を有している種、図版や専門書・エッセイなどの参考文献が豊富な種を中心に選んだ。
第二の基準は、個性のある種であること。無論、全ての昆虫にはそれぞれ個性があるが、その中でも生態や形態に際立った個性、さらに言えば「品格」のある種を選んだ。
第三の基準は、採集可能な種であること。法律で全国一律に採集が禁止されている天然記念物(文化財保護法)と国内希少野生動植物種(種の保存法)は除外した。採集可能であることを基準にした理由は、調査・研究・保全など、昆虫にまつわる全ての営みを支える基盤となっているのが採集であるからだ。詳細は、本文中で随時述べていく。
付加的な条件としては、なるべく日本固有種を優先し、特定外来生物(外来生物法)に指定されている種は除外した。カイコやミツバチのように家畜化されている種、農業害虫として駆除の対象になっている種も原則除外した。なるべく特定の目や生息地に偏らないよう、全体のバランスを考慮して選定を行った。
本巻『フォトジェニックな虫たち』では、不完全変態の昆虫と水生・肉食性の甲虫、別巻『ドラマティックな虫たち』では、草食・菌食性の甲虫とチョウ・ガの仲間などを中心に、それぞれ50種ずつ紹介している。読者の興味のある種や仲間が載っているページから読んで頂いて構わない。
知られざる百名虫の世界を堪能した後は、ぜひ本書を片手にフィールドに飛び出し、北海道から沖縄まで、各地に散らばる名虫たちを探しに行ってほしい。
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