このコラムでも何度か取り上げていますが、私は現在、苔テラリウムを育てています(第4回:苔にはまっています)。
最初の苔テラリウムを購入したのは今から4年程前のこと。
それから今までのこの間、水をやり過ぎて枯らしてしまったり、植え替えをお願いして復活させたり、ムカデが大発生したり(第32回:苔テラリウムのムカデ)と、波乱万丈の苔生を送ってきた私の苔ちゃんですが、これらの経験によってひとつ学んだことがあります。
それは、夏場はどうしても苔の調子が悪くなるということです。
苔は乾燥に強い反面、蒸れた状態には大変弱い植物です。
購入した初めの年は水をやり過ぎて蒸し風呂にしてしまい、翌年は水を抑えたのに黴が発生し、3年目はなるべく涼しい場所に置いて家を出たものの色々あって(第70回:バジルの悲劇)2週間ほど帰れなくなった結果、テラリウムの半分ほどを枯らしてしまうという、これまで散々な夏を過ごさせてきました。
そうなんです。バジルの回では明言しませんでしたが、実は入院騒ぎで帰れなくなった時、枯れてしまったのはバジルだけではなく、苔もだったんです……。
家を出る時、出来るだけ換気させたほうがいいと思って蓋をずらしていたのですが、今思うと思い切って蓋を全部取るべきでしたね……。当時は2週間帰れなくなるとは思ってもみなかったので仕方がないのですが、結局、蓋をずらしただけでは換気が足らず、再び蒸し風呂状態が発生してしまったのです。
帰宅して、干からびたバジルちゃんと、結構いい感じに育っていた苔ちゃんが真っ白にゆで上がっているのを見てしまった瞬間、「こりゃ~もう駄目だ」と心が折れました。
いや、これでもそこそこ頑張ってきたんですよ!?
冬場に帰省する時には日照不足を心配してタイマー式のライトをセットしたり、毎日10分の換気をしたり、夏場はクーラーのついた部屋で過ごしてもらうべく、寝る時は寝室に苔を連れていったり……。
それなのに、ちょっと気を抜いた瞬間お陀仏になっちまうなんてあんまりだ! 苔って手入れが簡単じゃなかったんか!? 全然簡単ではないんだが!? と、がっくりきてしまったわけです。なんとかあの手この手で誤魔化してきましたが、もう限界です。
――と、いうわけで、私はこの春、ワインセラーを購入いたしました。
16本もワインが入る、そこそこでっかいワインセラーです。
ワインセラー、苔愛好家の方の中では夏場を乗り切るための最後の手段として使われていると知ってはいたのですが、これまでは「流石に下戸の身分でワインセラー買うのはどうなのよ?」「いや、電気代も馬鹿にならんし」と尻込みをしていました。ですがこれ以上、私の能力で苔ちゃんに夏場を乗り切らせるのは無理です。
外出先で「苔は無事だろうか……」といちいち心配しないで済むようにするためにも、心の安寧を金で買うことにしました。
阿部智里(あべ・ちさと) 1991年群馬県生まれ。2012年早稲田大学文化構想学部在学中、史上最年少の20歳で松本清張賞を受賞。17年早稲田大学大学院文学研究科修士課程修了。デビュー作から続く著書「八咫烏シリーズ」は累計130万部を越える大ベストセラーに。松崎夏未氏が『烏に単は似合わない』をWEB&アプリ「コミックDAYS」(講談社)ほかで漫画連載。19年『発現』(NHK出版)刊行。「八咫烏シリーズ」最新刊『追憶の烏』発売中。
【公式Twitter】 https://twitter.com/yatagarasu_abc
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