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作家の羽休み――「第32回:苔テラリウムのムカデ」

作家の羽休み――「第32回:苔テラリウムのムカデ」

阿部 智里


ジャンル : #エンタメ・ミステリ

 過去のコラム(第4回:苔にはまっています)でも取り上げている通り、私は現在、苔のテラリウムの世話を趣味にしています。

 もともと草花は大好きなのですが、生活形態が東京と群馬を行ったり来たりであること、長期間文春に缶詰になる場合が多いことも踏まえ、鉢植えの花は育てられないなぁなどと考えていました。田舎生まれ田舎育ちなのですが、そのせいで虫に関する恐怖体験も多く(第23回:群馬の蝋梅)、部屋の中で植物を育てていて虫が発生したら困る、という気持ちもありました。

 しかしある時、鉱物関係の展示会で硝子の容器に閉じ込められた美しい苔を発見し、「これだ!」と天啓を受けてしまったのです。苔は乾燥に強く水やりもちょっとで平気だから、ほとんど手間はかからない。しかも硝子の容器に入っている分、虫が発生することもない。完璧だ! と思ったわけです。

 実際、これはとてもとても楽しい趣味でした。

 仕事机の上に置いておくと美しい緑がいつでも楽しめますし、テラリウムの中に水晶などを配置してみると、そこに小さな異世界が広がっているかのような気分が味わえます。ちっちゃい新芽が出れば可愛いし、思っていた以上に、苔テラリウムは私の生活形態にピッタリだったのです。

 どんどん苔が可愛くなり、いつか自分で作ってみるのもいいかもなーなどと思っていた矢先、緊急事態宣言が発令されてしまいました。

 うっかり群馬に戻っていた私は、可愛い苔ちゃんを東京の自宅に置いたまま、数か月の間、戻るに戻れなくなってしまったのです。

群馬のご実家でニャアと過ごす阿部智里さん
撮影:深野未季/文藝春秋
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