- 2024.02.22
- 特集
編集長が語る【オールの讀みどころ】 2024年3・4月合併号は直木賞決定発表&赤川次郎特集!
文:「オール讀物」編集部
ジャンル :
#小説
,#エンタメ・ミステリ
,#歴史・時代小説
「本の話」を読んでくださっているみなさん、いつもご愛読ありがとうございます! 編集長の石井です。
5人の精鋭(?)でつくっている「オール讀物」の裏話、日ごろ編集部内で起きているよしなしごとについては、note不定期連載の編集部だより「オールの小部屋から」で(最近、本当に不定期です、すみません)発信しておりますので、チェックしてみてください!
こちら「本の話」の月イチ連載「オールの讀みどころ」では、最新号について、どんなところに力を入れたか、渾身の企画を紹介していきます。
というわけで「オール讀物」3・4月合併号。直木賞の発表号でございます。
第170回直木賞は、河﨑秋子さん『ともぐい』と、万城目学さん『八月の御所グラウンド』のダブル受賞と決まりました。選考会は近年めずらしい3時間超の長丁場。受賞作が決まった瞬間には会場が(私も)ホッとした空気に包まれました。
直木賞特集の定番は「自伝エッセイ」と「記念対談」です。今回、受賞者それぞれの個性がにじみ出る、読み応えのあるページができあがりました。
河﨑秋子さんのエッセイは、幸田文のひそみにならい、人生の節目節目に同じ時を過ごした動物たちの思い出をふりかえる「動物(野生含む)のぞき」。酪農を営む家に生まれ、自らも羊飼いをなさっていた河﨑さんだけに、ひとつひとつのエピソードが濃厚、濃密です。なにせ、牛(ホルスタイン種)、羊(コリデール種?)、といったふうに品種名入りで動物が紹介されていくのですから!
いっぽう万城目学さんは、17年間、6回の直木賞候補歴を生かした「待ち会戦記」。知っているようで知らない文学賞の「待ち会」の内実が赤裸々に、飄々とした筆致で綴られていきます。複数回の待ち会をご一緒した覚えのある私は、「万城目さん、あのときこんなふうに思ってたのか」と、胃が痛くなるところもちらほら……。直木賞特集の企画でなければ、決して明かされることのなかった作家の生の本音だろうと思います。今、ここ(雑誌)でしか味わうことのできないエッセイでしょう。
河﨑さんの記念対談は、同じ北海道の先輩・桜木紫乃さんと。しんしんと雪の降り積もる札幌市内某所で、「いいかカワサキ!」「はい、桜木ねえさん!」と、息ぴったりのトークが展開されました。桜木さんにエールをおくられるたび天を仰いで涙ぐむ河﨑さんがとても印象的でした。
万城目さんの対談相手は、おなじみ森見登美彦さん。長いおつきあいのふたりですが、実は「仕事は一緒にしない」という盟約(?)があるのだそうで、面と向かっての対談は、17年ぶり2回目なのだとか。和気藹々としたおともだちトークになるのかと思いきや、互いの発言に耳を澄ませ、間髪入れずにツッコミあう、緊張感のただよう真剣勝負になりました。デビュー当時のそれぞれの「生き残り戦略」や相手に抱いていた警戒心までが明かされて、自伝エッセイと同様、今、ここでしか語られないであろう秘話に満ちた対談となりました。
もうひとつご紹介したいのが、嶋津輝さんの短編「わたぼこりの女」です。嶋津さんは第96回オール讀物新人賞の受賞者で、2023年刊行された初長編『襷がけの二人』が今回の直木賞にノミネートされました。惜しくも受賞を逃しましたが、「作者の勇気と筆力に感動した」(桐野夏生委員選評)、「読書の喜びを満喫できる、魅力的な作品」(三浦しをん委員選評)と、高い評価をえて、最後の最後まで受賞を争った一作でした。その『襷がけの二人』のスピンオフ短編が早くもオールに登場します。嶋津さんってどんな作家なんだろう、どんな小説を書くんだろうと興味を持たれた方は、『襷がけの二人』とともに、新作短編をチェックしていただけたらと思います。
米澤穂信さんの新作(ミステリーランキング3冠『可燃物』の葛警部シリーズ)はじめ、江戸から明治へと「結婚」の変遷をたどる川越宗一さんの新シリーズ、石田衣良さんの池袋ウエストゲートパーク、唯川恵さん、西條奈加さん、中島京子さん、荻原浩さん、北村薫さんたちの短編が並ぶ、直木賞作家豪華読切は必読です。
新著『幽霊健診日』がシリーズ30作となる赤川次郎さんの特集も圧巻です。ご本人のインタビュー「エンターテインメントの条件」、角川春樹さんの寄稿「『セーラー服と機関銃』のころ」、そして門井慶喜、東川篤哉、望月麻衣、鈴木智彦四氏による「私の一冊」がまた面白い。鈴木智彦さんといえば『ヤクザと原発』『サカナとヤクザ』『ヤクザときどきピアノ』などの著作のあるヤクザ取材のエキスパートですが、実は赤川作品の大ファンでもあるのです。とくに鈴木さんのお祖母さまのエピソードは感涙必至! なんとしても読んでいただきたい傑作エッセイです。
4月からNHKにてスタートする八咫烏シリーズのアニメ化作品「烏は主を選ばない」のキャスト発表を受け、原作の阿部智里さん、あせび役の本泉莉奈さん、浜木綿役の七海ひろきさんによる座談会「物語の声が聞こえる」が一挙掲載。アニメーション制作現場の雰囲気が伝わってくる楽しいトークをお楽しみください。
そして、宮下奈都さん待望の小説新作「石を拾う」が満を持して登場です。コロナ後の世界で、“マグマ”を抱えて暮らしている少女と台湾出身の男とが出会ったとき、何が起こるのか――。いま戦っているすべての人に届けたい、何かを感じとっていただきたい、渾身の作です。
ほか、トリを飾る畠中恵さんの「まんまこと」はじめ、砂原浩太朗さんの「藩邸差配役日日控」、諸田玲子さんの本格推理時代シリーズ「おまあ推理帖」まで、時代小説も傑作ぞろい。
さらに、ついに杖をつくことになった東海林さだおさんの「杖入門」も必読です! 小説からコラムに至るまで、とにかく楽しい一冊になった「オール讀物」3・4月号をどうぞよろしくお願いいたします!
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