- 2024.04.17
- 読書オンライン
「ディスプレイは広告だらけ」「文明が崩壊しても紙の本は読める」英国人エリートが「本を電子書籍では読まない」理由
ジョー・ノーマン
『英国エリート名門校が教える最高の教養』より #2
〈「つまらない本は投げ出していい」「宿題のように本を読むな」日本人が意外と知らない「正しい本の読み方」〉から続く
「人間の目の動きは、本を読む時とディスプレイ上の文字を追う時とでは違うのだ」
英国の名門パブリックスクール卒業者は、なぜ「本を電子書籍では読まない」のか……? ジョー・ノーマン氏は、英国最古の名門パブリックスクール(中高一貫校)であるウィンチェスター・カレッジで学び、オックスフォード大学に進学。現在は英国名門パブリックスクール専門の受験教師として活躍している。ここではノーマン氏の新刊『英国エリート名門校が教える最高の教養』(文藝春秋)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)
◆◆◆
電子画面を見るな
紙の本と電子書籍のディスプレイはどう違うのか。
紙の本は安い。お風呂に落としても問題ない。紙の本でメールは送れない。紙の本に電気は必要ない。現代文明が崩壊しても、紙の本は読める。
一方、電子書籍をリーディング・デバイスやパソコンの画面で読むことの問題は、周りの何か別のものがいつでも目についてしまうことだ。もっと面白くて、その場で楽しめるものが常に読めてしまうのだ。
最近の調査で、紙の本の読み方と電子書籍の読み方は違うことが明らかになった。人間の目の動きは、本を読む時とディスプレイ上の文字を追う時とでは違うのだ。紙の本を読む時は、(西洋の横書きの文書の場合)E字型に動く。左から右に一行ずつ読んでいく。ところがパソコンやタブレットやスマホなどでの読書になると、目がF字型に動くのだ。最初の数行は目を左から右に動かしてじっくり読み取るが、あとは左側のマージンに沿って目が降りていくだけ。確かにコンピューターやタブレットやスマホでの読書は集中力が落ちるかもしれない。実際わたしもそう感じる。
人類は数千年にわたって本から情報を得てきた。一方、電子書籍の歴史はまだ20年くらいだろうか? よって、書かれたものに本気で集中したいのであれば、印刷しよう。
ディスプレイ上の読書は戦いだ。見たこともないような超巨大企業が次々と立ちはだかる。巨大企業はあなたと同じような人が書いた文や撮影した写真であなたの注意を引いて利益を上げている。というのはその文や写真の脇には別の企業バナー広告がちらちらしていて、巨大企業はこの広告料を得ているのだ。巨大企業はディスプレイ上にどこかで見たような文や写真をちりばめて、ユーザーの注意を引きつけようとする。そうすればその脇で宣伝しているものをユーザーに買ってもらえるからだ。
あるいは2016年のアメリカ大統領選やイギリスがEU離脱を決めた国民投票ではハッキングが行われたとされるが、そのようにして人々にそれが真実であると信じ込ませることもできる。
アメリカの行動分析学者バラス・スキナーは言っている。
“新しい行動を定着させるには、その行動を頻繁に取らせる必要がある。”
だから毎日、本を読もう。そして毎日、コンピューターや電子デバイスを見るのはやめよう。
もうひとつ心に留めてほしいのは、コンピューターやタブレットやスマホの発明者たちは、自分の子供にそういった電子デバイスを使わせないようにしているのだ。スティーブ・ジョブズは、お子さんたちはiPadをどう思うでしょうか、とたずねられ、うちの子は誰も使ったことがない、と答えたという。シリコンバレーの幹部たちは子供たちにソーシャル・メディアへのアクセスを禁じている。タバコ会社の幹部がタバコを吸わないのと同じことかもしれない。人間の脳は25歳頃までは柔軟で順応性が高い、つまり環境に染まりやすいと認識しているのだ。
すでに25歳以上で、子供の教育に責任がないとしても問題は残る。あなたの頭に何かを詰め込みたい者がいるとすれば、それは誰か? あなたか? それとも別の人か?
人生の支えとなる本に出会うには
そのような本と巡りあえる時間は限られている
ほとんどの人が30歳くらいで新しいジャンルの音楽を聴くのをやめてしまう。内にこもって嗜好が固まってしまい、古い木戸のように意固地に心を閉ざしてしまうのだ。
本についても同じことが言えると思う(同じでないはずはない)。どうかご注意いただきたいが、実際これをわたしも経験した。わたしは40歳過ぎだ。まだ経験していない人にも当然起こりうる。だから悠長に構えていてはいけない。30歳以下の人は(緊急ではないが、のんびりしていられない)、これからの人生では意味のあることで頭を満たすようにしよう。そして30歳以上の人は、新しいものを読むように心がけよう。
わたしは固く信じているが、教養はほかのことをすべて忘れてしまったあとにも残る。教養のある人たちと話をしたいのなら、本書に収録した「教養のための必読リスト114冊」にある本を何冊か読んでみることだ。
読書とは「最高の賢人」たちと話せる行為
すでに見てきた通り、先人たちの名著も含まれている。これが文学にできることだ。先人と言葉が交わせるだけでなく、彼ら先人とほかの先人たちについて語り合う。ただの先人たちと話すのではない。人類史上最高の思想を備えた人たちと話すのだ。最高の賢人たちと話せるのだ。
ジョン・キーツはこの思いを、「チャップマン訳ホメロスとの最初の出会い」に書いている。キーツは苦々しく記しているが、ホメロスの『イーリアス』も『オデュッセイア』も、ジョージ・チャップマンによる1616年の翻訳版を手にするまで読んだことがなかったのだ。「チャップマン訳ホメロスとの最初の出会い」をキーツが詠んだのは1816年、21歳の時だ。この5年後にキーツは25歳で没している。
どうか心に留めてほしい。人によるが、人生の支えになる本に巡りあえる時間は思っているよりかなり限られているのだ。
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