
- 2025.03.31
- 読書オンライン
「残された者が生きていく上で、ファンタジーは救いになる」ファーストサマーウイカが書かせた感涙小説『花のたましい』
第二文藝部
『花のたましい』(朱川 湊人)
出典 : #文春オンライン
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
直木賞作家・朱川湊人さんの最新作『花のたましい』が、かつてない小説の試みとして注目を集めている。
『花のたましい』は4月25日に全国公開される映画『花まんま』(原作は朱川湊人さんの同名小説)のスピンオフ小説集で、映画の登場人物たちの「もうひとつの物語」が描かれる。
主人公の俊樹(鈴木亮平)、妹のフミ子(有村架純)、フミ子の婚約者の太郎(鈴鹿央士)、俊樹の勤める工場の社長(オール巨人)、行きつけのお好み焼き屋の大将(オール阪神)、その娘の駒子(ファーストサマーウイカ)などなど、個性豊かな映画の登場人物たちが、小説の世界によみがえるのだ。

なかでも作家に大きく影響を与えたのが、駒子を演じるファーストサマーウイカさんだった。撮影現場を見学した朱川さんが、ウイカさんのハマりっぷりに驚き、執筆を決意したのだという。
「駒子は僕の原作には出てこない、映画のオリジナルキャラなんです。自分が産み出した人物ではないので、どんなものかと思っていたら、あまりにも自然に物語に溶け込んで、しかも重要な役割を果たしていたので、こりゃまいったな、と(笑)。あとは、もともと頭にあった小説の構想に駒子を落とし込むと、勝手にストーリーが動き始めました」

ウイカさんは『花のたましい』を読んだ感想をこう語る。
「作品の冒頭、お初天神にお参りするシーンで、駒子がお賽銭を数回分、前払いするんです。『うわ、やりそー』と、いきなり笑ってしまって。ほかにも、頼まれたらいやといえないところ、おせっかいなところ、世渡りが上手なところ。演じた身として悔しいほどに(笑)、駒子らしさが細かいところまで随所に描かれていて、生き生きとしていました。駒子になついてしまう幼馴染の女の子も『いるなー、こういう子』という感じの、身近な誰かを当てはめてみたくなるような女の子。朱川先生の産み出すキャラには、常にそういう説得力があるように思います。わたしの芝居が執筆の契機になったのだとしたら、役者として、なによりうれしいことです……」
残された者が生きていくためには……
ウイカさんの役作りが、そのまま小説の主人公の造型に生かされたわけだが、どんなことを意識して芝居にのぞんだのか。
「原作の小説『花まんま』は、俊樹とフミ子の幼少期が描かれています。一方の映画は、主に2人が大人になってからのお話。その時間の隙間を埋めるのが自分の仕事やと思って取り組みました。不器用な兄ちゃんと、心やさしい妹が懸命に生きていて、2人はいつも誰かに支えられている。その支える側をわかりやすく可視化したのが、駒子です。観客のピントが合いやすい人物だと思います。わたしが撮影に入ったときには、もう亮平さんと有村さんが“大阪下町に生きる人々の空気感”を作ってくれていたので、自然にそれに身をゆだねるような気持ちで、役柄と自分とのオン・オフも、あまり意識しないようにしました」

「『花まんま』も『花のたましい』も、不思議なことが起こるお話なのに、なぜか『わかるわー』と言わされてしまうリアリティがあります。普段は現実にはありえないと思っていることも『いや、あるかもしれない』と、どこか信じられる。たとえば、結婚式なんかで『死んだおじいちゃんも、よろこんどるやろな』『うん、今日はここへ来とるかもしれんで』みたいな、身近にある『もしも』の話のように。残された者が生きていく上で、ファンタジーは救いになるし、必要なものなんだなってこの作品で改めて思いました。
『花まんま』がどういう映画なのか、『花のたましい』がどういう小説なのか、ひと言で言い表すのはむずかしいので、ぜひみなさんの目で、たしかめてください」

小説『花のたましい』は2025年3月24日(月)発売、映画『花まんま』は4月25日(金)公開予定。映画原作『花まんま』(文春文庫)も好評発売中です。
《映画『花まんま』作品情報》
■タイトル:『花まんま』
■公開情報:2025年4月25日(金) 全国公開
■キャスト:鈴木亮平 有村架純
鈴鹿央士 ファーストサマーウイカ 安藤玉恵 オール阪神 オール巨人
板橋駿谷 田村塁希 小野美音 南 琴奈 馬場園 梓
六角精児 キムラ緑子 酒向 芳
■原作:朱川湊人『花まんま』(文春文庫) ✿第133回直木賞受賞
■企画協力:文藝春秋
■監督:前田 哲(『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』『そして、バトンは渡された』『九十歳。何がめでたい』ほか)
■脚本:北 敬太
■イメージソング:AI「my wish」(UNIVERSAL MUSIC / EMI Records)
■映画コピーライト:ⓒ2025「花まんま」製作委員会
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