この考え方が基になって合理的期待形成論が生まれ、さらに一九八〇年代のレーガン政権、サッチャー政権を支えたサプライサイド経済学に取り込まれた。
「通貨の供給量によって景気は決まる」と主張したサプライサイド経済学者は、「政府の適切な介入によって景気を刺激する」と考えたケインズ経済学者を駆逐し、アメリカの政権中枢に大きな影響を与えるようになった。これによっていわゆる「レーガノミクス」が誕生した。レーガノミクスの基本哲学は、規制緩和や民営化、大幅減税などで特徴づけられる「小さな政府」だ。
レーガノミクスを起点にして、世界各国で規制緩和や民営化が大流行し、日本では小泉政権が郵政民営化を実現した。一九九〇年代以降には「政府の役割を小さくしてすべてを市場に任せよう」という市場原理主義に行き着いた。その一つの悲惨な結末が、ウォール街を震源地にした現在進行中の世界的金融危機なのである。
ほかにもランドの痕跡はあちこちにある。ゼロサムゲーム、システム分析、終末兵器、フェイルセーフ(多重安全装置)――。これらの言葉はすべて、ランドで考案された。米ソ冷戦時代に核弾頭搭載のICBM(大陸間弾道ミサイル)を開発したのも、将来のインターネットの土台となる通信技術を開発したのも、ランドだった。
ゲーム理論も例外ではない。ランドは一九五〇年、天才数学者ジョン・フォン・ノイマンを正規採用し、「戦争一般理論」の開発を依頼した。ランド流合理主義にしたがって数学的に戦争の原理を解明すれば、ソ連に勝てると考えたからだ。フォン・ノイマンは戦争一般理論を構築することはできなかったが、いまビジネスの世界で注目を浴びているゲーム理論の土台を築いた。
ランド出身の研究者やアドバイザーでノーベル賞を受賞した人物は実に二十九人にも上る。元国務長官のヘンリー・キッシンジャーのノーベル平和賞など一部の例外を除けば、ほとんどは物理学、経済学、化学部門での受賞だった。
著者のアレックス・アベラ氏は、秘密のベールに包まれてきたランドの内部文書に自由にアクセスできた初のジャーナリストで、小説家でもある。生身の人間であるランド関係者をカラフルに描いている。一般のビジネスマンでも比較的気軽に読める内容になっている。
ランドというプリズムを通してアメリカを見ると、それまで知っていたアメリカとは違うアメリカの姿が浮かび上がる。
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