気づくことが橋を架ける
ある人は初めて名を知った先哲の言葉に、自分が認められたような気がするだろう。ある人は著者が出会った市井の人の問いに、自分が問われているような痛みを覚えるだろう。それはコトバとの出会いである。それは外からやってくる啓示ではない、と著者はいう。私たちは聞くのだ。すでに私たちの中にあるものがふとかたちを現す瞬間を、彼方から来たコトバを聞くように私たちは体験する。
あなたにもないだろうか? あ、そういうことだったのか! という気づきが、世界とあなたの間に橋を架けたことが。虹のように束の間光って消えてしまうその気づきが、しかしあなたに、誰かに話しかけられたようなほの温かい承認を残して去るのを、懐かしく見送ったことはないだろうか。私にはある。その一瞬において、わたしは道であった。
わたしが渡しの意を持つのかは知らない。けれどたしかに、自己は孤独のうちに留まり得るものではなく、隣人を希求する。誰も他者の気づきを経験することはできないけれども、その訪れに絶えず感応するなにかが、全ての人の中にあることを直感している。
他人から見たらどうでもいい理由で死のうと思ったとき、私は初めて人の尊厳が無名であることを知った。無名の尊厳を生きることにおいて、私は他者と等しい。それは、特別な自分であらねばならないという呪縛をとき、私を自由にした。誰がこんなことを教えてくれたのか、わからない。きっとこれは思い込みに過ぎないけれども、思い込みでも人は生きていけるのだと思った。そして著者は、それは孤独な思い込みではないと、私の肩を抱くのだ。そこに生まれるものが、コトバである。
苦しみにも悲しみにも優劣大小はない。喜びに序列はつけられない。生きることは、なぜではなくどのように生きるのかという問いに応える営為だ。それは光であると著者はいう。今読まれるべき、労りと励ましの書である。
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