ミステリのオールタイム・ベスト選出のような企画では、どうしても過去の名作が有利となる傾向がある。では、評価がまだ定まっていないごく最近のミステリで、そうした名作に伍する出来映えの作品は存在するだろうか――そう問われれば、私ならそのうちの一冊として本書『密室蒐集家』(二〇一二年十月、原書房)を挙げたい。本格ミステリの愛好家なら、何をおいても読むべき高水準な短篇集なのだから。
著者の大山誠一郎は、一九七一年、埼玉県出身。京都大学在学中は推理小説研究会に所属していた。まず翻訳家として世に出た後、電子書籍販売サイト「e-NOVELS」に発表した短篇「彼女がペイシェンスを殺すはずがない」で二〇〇二年に小説家デビュー。四人の男女の推理合戦を描く連作短篇集『アルファベット・パズラーズ』(二〇〇四年、東京創元社→創元推理文庫)が初の著書である。兼業作家ということもあってかなり寡作で、その後、本書が刊行されるまでのあいだには、著書としては長篇『仮面幻双曲』(二〇〇六年、小学館)があるのみだった。
本書には作品の背景となる年代順に五つの短篇が収録されているが、巻末の「佳也子の屋根に雪ふりつむ」が発表順では第一作にあたる。私は二階堂黎人・編『不可能犯罪コレクション』(二〇〇九年、原書房)でこの作品を読んだ際、その出来映えにひたすら驚嘆した。続いて、同じく二階堂黎人・編『密室晩餐会』(二〇一一年、原書房)に収録された「少年と少女の密室」を読んで、密室蒐集家シリーズが一冊の本に纏(まと)まることがあればオールタイム・ベスト級の傑作短篇集になるだろうと確信した。長年数多くの本格ミステリを読んできた私でも、シリーズ中のたった二作を読んだだけでそのような確信に至ることは滅多にないだけに、期待は高まるばかりだった。そして二〇一二年、ついに本書が刊行された時はその期待を裏切らぬ完成度に狂喜乱舞したが、それが私だけの過褒(かほう)ではない証拠に、本書は探偵小説研究会・編著『2013本格ミステリ・ベスト10』(二〇一二年)のアンケートで国内部門二位に選ばれたし、翌年には第十三回本格ミステリ大賞の小説部門を受賞する栄誉に輝いた。
収録作の時代背景は昭和初期から今世紀までさまざまだが、そのすべてに登場するのが密室蒐集家と称する人物である。警察が頭を悩ませるような難解な不可能犯罪が起きると、日本全国どこにでも忽然と現れる存在で、警察内部では伝説と化している。本名不詳、外見は三十前後の男性だが歳をとらないのか、どの時代でも同じ外見をしている……という、明らかに普通の人間ではない名探偵なのだ。
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