特集

週刊文春記者の見た東日本大震災・取材メモから

文: 石垣 篤志 (週刊文春記者)

東日本大震災から5年を数える。 情報が錯綜し、通信や交通が途絶える中、実情を伝えるため現地にたどりついた「週刊文春」の記者。人智を凌駕する力により壊滅した地で彼が見たものは何か。当時の記録の一部をここに公開する。

3月22日

 2週目の入稿日。夜、校了。この頃にはすっかり余震に慣れてきたが、揺れている気がする「地震酔い」の症状も出始めた。

3月23日

 取材班M車は北上から東北自動車道を上り、O車班は車を残し、秋田空港から空路で帰京。震災当日以来の東京で、瓦礫や裏返った車がないことに違和感と安心感。軽い浦島太郎状態。16時半前、編集部到着。この12日間でMカメラマンのステップワゴンの走行距離は3000キロを越えた。

4月3日

宮城県南三陸町(旧志津川町)(2)

 K記者は単身、陸前高田の震災孤児に密着取材の予定。朝食後、I、M両新人記者とともにホテルを出発。東北自動車道を南下、若柳金成インターを降り、震度7を記録した宮城県栗原市を抜けて、南三陸町を目指す。11時到着。新人記者2人には各自、被災地取材を任せて、防災対策庁舎へ。役場の隣に、震度7の地震を想定して造られた3階建てのこの建物は、津波にぶち抜かれ、剥き出しの赤い鉄骨だけに。地震後、ここに詰めていた役場の職員が20名以上、波に流れた。不明者の中には、ここで避難のアナウンスを続けた、秋に結婚が決まっていた役場の女性職員も。

南三陸町防災庁舎

 防災庁舎沿い、やはり鉄骨しか残っていない建物から、ピンクのフード付コートを着た少女が出てくる。キャラクターの柄つきのマスクをしている。父親を探しているという10歳の小学生。

「役場に勤めていたお父さんを探している。働いていたのは企画課。名前は○○。42歳。毎日、お母さんとお兄ちゃんと探している。(災害対策本部のある)ベイサイドアリーナも気仙沼も登米も、いろいろ回って探した。地震の日の朝、学校まで車で送ってもらって、バイバイと別れたのが最後。高校の避難所に、お父さんをよく知っている役場の人がいて、津波が来たときは防災庁舎の太いアンテナにみんなで肩を組んで掴まっていたって。他の人は階段の柵にしがみ付いていた。40人くらいいて、役場のトップ3は助かった。私のいとこのお母さんも役場で働いていたけど、長野に行っていて助かった。お父さんの肌色の車は、社会福祉協会の下で見つかった。

 お父さんが大好き。いつも遊んでくれる。いないと困る。お父さんは体力もあるし、死ぬより、生きる力の方が強い。当日はヘルメットを被っていたと聞いている。うしろに南三陸と書いてある青いジャンパーを着ている。どこかで生きている。石巻でも80歳のお婆ちゃんが助かったというニュースがあった。お母さんも、家族みんな同じ気持ち。

 でも、お母さんは毎日、たくさん涙を流していて、かわいそう。さっき、役場の中で、お父さんが書いた書類を見つけた。ずっと昔に書いたもの。お父さんの字だ!と分かった。お父さんが帰ってきたら、新しいおうちを建てようとみんなで言っている。それが楽しみ」

 前向きでけな気。だが、震災から3週間、父親の生存は絶望的。彼女が信じている父親の生存の可能性を否定する気がして、話を聞きながら涙を堪える。防災庁舎の中を探していた母親が近づいてくる。

「津波の恐ろしさ、怖さを伝えてください」。母親の頬を涙が伝う。少女を白い軽自動車に乗せて、次の場所へ移動していった。

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オール讀物 2016年3月号

定価:980円(税込) 発売日:2016年2月22日

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