口から食べ物を入れるってすごい
竹花 加奈子さんも料理、好きだよね?
西 好きというか……「なくなる」っていうことに、めっちゃ感動するの。小説は文字として残るから、普段は真逆のことをやっているわけじゃない。
竹花 どんなに時間をかけて料理しても、食べたら一瞬でなくなる。でもそれがいいんだな。
西 フィジカルだよね。それが信用できる。作ったものをその場で食べてもらう、その人の身体になっていくって、すごいドラマチックやし感動する。
竹花 人は、食べないわけにはいかないしね。
西 実は点滴でも生きていけて、それで太ったりもするんだけど、やっぱり食べたいの。口から食べ物を入れる、呑み込んで身体に取り込むって、すごいことだよね。
竹花 この本で最初に「なぜ料理が好きか」って書いてあるでしょ。大根のみずみずしい骨のような白さ、とか、火を入れたときのガスコンロの音、とか。わかるわーって思った。
西 色が変わっていくのとか、観察するのが楽しい。
竹花 そうそう。料理教室でも私、計らないやり方をすすめてしまうんだよね。それは計っているうちに、どんどん状況が変わってきているのを、見のがしちゃうから。
西 私も全然、計らんわー。
竹花 だと思った(笑)。前はお菓子だけは計っていたけど、これも最近計らないで、割と美味しいものが作れるようになっちゃった。
西 前に食べさせてもらった柿のロールケーキ! あれは絶品やったわ。
竹花 うれしいー。あれはすごい褒(ほ)められる(笑)。
西 海外とかで美味しいものを食べたときは、どう?
竹花 驚くほど何も考えないで食べてる。人に「これ何入ってると思う?」とか聞かれて、初めて「ああっ」て考えたりして。
西 そこも似てる。うちも小説を読むとき、完全に読者として読んでる。何か変わったこと体験して編集者に話すと、「それ次の小説に書かれるんですか」と言われて、「ええっ」て(笑)。そんなん考えたことないから。
竹花 わかるわかる。結局、自分にとって大切なことって、もう身体のなかに全部入っていて、それを信じればいいよね。
西 身体しか信じてない(笑)。小説を書くときは、メモを取ったり順番を組み立てたりしないで、そのとき自分にワッて入ってきたものを書く。これを書こうと思って書くと、それが邪魔になっちゃう。
いち子さん、文章を書くのと料理って、どういうふうに関係してる?
竹花 私の場合は、作詞やコピーライターをしてたから、閃(ひらめ)きが頼りって感じで、料理のメニューを考えるのと似てるかな。
小説はまた全然違う世界だと思うけど、『サラバ!』……あの膨大な長さのものを書くってどんな感じ?
西 うーん。料理にたとえるなら、煮込み料理。時間をかけて、いろいろ入れて、玉ねぎ溶けていなくなったけど、味には残ってるなーとか。削った文章のほうが多いし、何が出来あがるのか自分でも分からなかったけど、絶対に出来るって自分を信じながら書いてた。エジプトに行ったとき、最後に主人公がエジプトへ行く場面で使おうと思って、忘れないよう先に原稿を書いてたけれど、結局使わなかったの。これは捨てるところやって。
竹花 料理の撮影でも、絶対やろう! とずっと考えて準備してたことを、パッとその場でやめちゃうこと、ある。思いきって捨てると、かえってスーッと落ち着いたりね。
西 経験を重ねるうちに、だんだん分かってきたのかな。昔より捨てることに勇気がでてきたと思う。
これが私の味覚、っていうのを信じる
竹花 『サラバ!』を読んで、子供のときって違う言葉でも分かり合うことができる、そしてそれを加奈子さんは、心から信じているんだなというのを、すごく感じた。
西 ありがとう。本当に、子供のときはあんなに簡単に触れ合えて仲よくなれたのに、大人になったら出来ひん。それがほんま悔しい。「とりあえず飲みにいこうか」ってなっちゃう(笑)。
竹花 ははは。ほんとだね。
西 小さいときから、ごはんを食べる、これが私の味覚、っていうのはすごく信じてる。人に会う、なるべく触るっていうのも。
竹花 そういえばこの『ごはんぐるり』に、子供のころのエジプトでの食生活が書かれているけど、加奈子さんのお母さん、本当にすごいね! お米からピンセットで石と死んだ虫を何時間もかけて取るって……。
西 テーブルにバーッとお米広げてね。食べるまでが大変だったけれど、でもカイロで食べてたごはんって、ものすごく美味しかった。お弁当も! あれ不思議やね。今どんなに美味しいお寿司とか食べても、カイロの卵かけごはんには勝てない!
竹花 前に、うちの店の復活祭りをしたとき、懐かしいメニューを次から次へと食べながら「胃袋は思い出で出来ている!」って叫んでた人がいたけど、正にそれだね。
西 それや! 大人って楽しいこともたくさんあるけど、失うものも多いから。
竹花 この間もう一つ思ったのは、食事はチームワークだってこと。食べるときは黙ってて、あとからすごくいいメールで御礼を言われたり、フェイスブックで絶賛されるより、ちょっとでもその場で感想を言ってくれたら、次の料理がもっともっと美味しくなったって思うのね。加奈子さんはいつもすぐ「美味しい!」って気持ちを伝えてくれる。食べ方上手だよね。
西 いち子さんの料理、だって本当に美味しいから(笑)。そうだ、今日はお土産に私の大好きなお菓子を持ってきたの。デメルの猫の舌のチョコレート。
竹花 あ、美味しい! 箱もすごく可愛い。箱とか器も、本当に重要だよね。
ところで、この本を出したころ(二〇一三年)と今じゃ、食生活もずいぶん変わったんじゃない?
西 忙しくなって、外食が増えたかな。仕事のあとに会食とか。だから家では、ほぼ毎日、お豆腐と春菊と葛きりをポン酢で食べてる(笑)。夫のために、料理はするけどね。いち子さんはよく行くお店とかある?
竹花 ほとんど外食しないから、全然知らないの。でも気持ちよく食べられる店がいいよね。一番好きなのは屋台とか、手で食べるお店(笑)。フランス料理より、そっち。
西 私も。だけど一軒だけ、ワインがものすごく美味しくて、ソムリエの人の薦(すす)めかたがすごく上手で、いくらでも飲めて気持ちよーく酔っぱらえるお店を知ってるから、今度一緒に行こう!
竹花 行こう行こう。でもそれって、すごくアブナいお店だよね(笑)。
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