――優雅な旅のようですが、小説の中では列車の先頭のラウンジカーで行われる話し合いが、物語の核となっています。
今年は戦後70年ですから、第二次世界大戦に何か関係のある作品を書くことは、ずっと以前から決めていました。僕は陸軍幼年学校にいましたから、戦争が終わってからも「偕行」なんて雑誌が送られてきて、戦争を様々な角度から振り返った記事や手記を読んできたし、実際に戦争を体験した人が少なくなっている現代だからこそ、書きたいことがいっぱいあるんです。
日中戦争終盤の蒋介石による和平工作とその失敗について、さらにそこに参謀本部の動きなども絡めて、あえて豪華列車の中という舞台で関係者に話をさせた理由は、「ななつ星」というのは、現代の日本の平和の象徴だと思うんです。これがゆとりのない場所での話し合いだと、関係は余計にぎすぎすするだけで、あんまり建設的ではないのかと……。
――しかし様々な妨害工作が入り、十津川警部と乗客たちは生命の危機にさらされてしまいます。ここから脱出へ向けたラストまでは、車内での取材が活きているわけですね。
「ななつ星」での唯一の不満は、テレビがないことでね(笑)。だから窓の外を見ながら――まあ、ベッドに寝転びながらも車外が見られる大きな窓はいいものなんだけれど、風景を見ながらずっと小説のことを考えていて、福岡で降りる頃には、今回の作品は頭の中ですでに書き終えていました。
ヒントは非常口にあります。これはいつも取材のときには必ずチェックするんですが、たとえば新幹線の0系では1車両毎に真ん中に必ず1つあったんですよ。一度も使われずに、最近の新幹線の非常口は連結口へと移ってしまいましたけれど、そんなのもトリックに使える重要な要素です。「ななつ星」の非常口は、デザインまで何だかお洒落でね(笑)。どのように十津川警部がそれを使うのか、ぜひ本書をお読みください。
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