インタビューほか

新しい信長像――そのカリスマと狂気

『王になろうとした男』 (伊東潤 著)

ベンチャー企業家の側面

高橋 価値創造でいうと信長には、ベンチャー企業家の側面があるのではないでしょうか。先祖伝来の土地を安堵されているだけで、あぐらをかいている人間に用はないとバッサリ切り捨てる。一方で、その辺をうろついている氏素性の定かではない人間でも、優秀であれば抜擢していく。秀吉や明智光秀がいい例です。信長には最初から良い家臣がいたわけではなく、自分で人材を見つけてきては次々に登用し、自分好みの実力派集団を作り上げる。

本郷 明智光秀は美濃国の明智城主と長らく言われていましたが、実は、学問的な裏付けは一つもありません。本当のところは何者かよくわからない。

伊東 そういった意味で、本当の実力主義を貫いたのが信長軍団です。その裏返しですが、今どきの言葉でいうと、ブラック企業のような組織だったことも事実でしょう。

高橋 林通勝や佐久間信盛のように十数年も仕えた重臣でもあっさりと追放してしまいますね。

本郷 実力主義は、貫徹するのにこれほど難しいものはありません。下剋上の時代ではありますが、戦国の世は抜擢が少ないのです。家老の家に生まれたら最初から家老だし、足軽なら足軽のままです。

 戦国時代の隣国はいまでいうと外国のようなものです。越前の朝倉家の「朝倉敏景十七箇条」には、「さのみ事闕(かけ)候はずば、他国の浪人などに右筆させらるまじき事」つまり、よほどのことでなければ、ほかの国の人間を信用して側近に取り立てるな、と書かれているほどです。そういった価値観の時代に能力さえあれば出身を問わずに使うのは実は常識外の発想です。他に戦国大名でこういった人材登用ができたのは、武田信玄と上杉謙信くらいでしょう。

 ただし信玄でも、才能によって若い人間を簡単に抜擢できてはいません。名門の家の養子にすることで、やっと可能になったのです。馬場信房、内藤昌豊、山県昌景、高坂昌信と名だたる武田の名将は名家を継いだ若者たちです。

伊東 信玄が失敗したのは、その後ですね。土着の家臣から支配権を奪えず、功を上げた家臣にも所領の統治権を与えてしまうから、家臣たちの独立志向が強くなった。部下たちが、それぞれの領地で子会社化して、力を持ってしまったので、勝頼の代になると、言うことを聞かなくなるのです。勝頼は家臣の内藤昌豊に対して、公正に扱うと誓う血判起請文まで書いています。

本郷 中央に権力を集める努力をしていないから、そうなったのでしょう。毛利元就も事情は同じです。兄弟三人が仲良くすれば毛利家は安泰だとした「三本の矢」の逸話がありますが、裏を返せば家臣は信用できないから、せめて兄弟たちだけは仲良くしなさいということ。それだけ家臣の独立心を抑えるのは難しいことだった。

高橋 戦国最強の呼び声高い武田軍団や中国地方の覇者毛利家にして、鎌倉時代の統治の仕方をそのまま受け継いでいる風ですね。

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王になろうとした男
伊東潤・著

定価:本体660円+税 発売日:2016年03月10日

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