書評

『河北新報のいちばん長い日』解説

文: 後藤 正治 (ノンフィクション作家)

『河北新報のいちばん長い日』 (河北新報社 著)

 掲載の是非をめぐって議論が分かれ、報道部長の武田真一は現地取材班の記者に電話をかけた。

《「その写真を地元の人が見たら、多分もたないと思います」記者はそう即答した。
 それを聞いた太田(巌・編集局長)は断を下した。
「掲載は見送ろう。われわれは被災者と共に、だ」》

 被災地と被災者に寄り添う──。本書で何度か記されている言葉であるが、お題目ではなく、日々そのことを自問し、模索しつつ紙面づくりが進められていったことを知る。
 

 未曾有の大震災。記者たちにとっても未曾有の取材行だった。だれもが傷を負いつつ、震災は彼らを本当の新聞記者にしていったのだと思う。

 本書のラストは、記者たちを指揮し、差配した武田の、「そもそも報道とは何なのか? 武田の自問は続く」という一文で締め括られている。 “正しい”答えはないのだろう。けれども、新聞人たちが解のない自問自答にもがきつつ歩き、撮り、書き、制作し、読者へと送り届けたが故に報道は力をもったのだ。

「白河以北」の地にあった新聞人たちは、新聞の──ジャーナリズムの、と言い換えてもよい──原点と役割をいま一度示してくれた。本書を読了し、そんな思いがよぎる。

 なお、一連の報道により、河北新報は二〇一一年度の新聞協会賞を受賞している。また本書を原作として制作されたテレビドラマ『明日をあきらめない…がれきの中の新聞社』(テレビ東京)は、二〇一二年度の日本放送文化大賞および東京ドラマアウォードにおけるグランプリを受賞している。ドラマ評はまた別個のものであるが、録画を見る機会があり、不覚にもしばしば涙腺が緩んで困った。


 ──武田真一氏の「文庫版へのあとがき」を読むと、河北新報はその後も、粘り強く、「震災その後」の報道を続けていることを知る。敬意を表したい。そして、河北新報は、〈東日本大震災〉を担うべき運命にあった新聞なのだと思う。

 歴史時間のなかでいえば、かつて中国新聞が〈原爆〉を、沖縄タイムスが〈沖縄〉を、熊本日日新聞が〈水俣〉を、神戸新聞が〈阪神・淡路大震災〉を担い、秀でた報道を持続してきた。河北新報は、日本の新聞史の、誇るに足る歴史の列に新たに参入した。健闘を祈る。

河北新報のいちばん長い日
河北新報社・著

定価:750円+税 発売日:2014年03月07日

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