- 2015.11.10
- インタビュー・対談
めっちゃおもろいやつがおる! 出口治明×仲野徹 歴史に残るリーダーたちの物語(前編)
「本の話」編集部
『世界史の10人』 (出口治明 著)
ジャンル :
#ノンフィクション
出口 不思議な能力を持っている人です。風采はあがらないし、伯父のボナパルトと違って、演説も苦手だったといいます。そして、女性にだらしがなかった(笑)。二度もクーデターに失敗して監獄に入れられていますが、そこでつき添いの娘に、二人も子どもを産ませたりしています。
しかし、治世としては悪くない。ナポレオン3世が普仏戦争で負けたことによって、フランスはアルザス・ロレーヌ地方の割譲だけでなく、50億フランもの賠償金を、統一間もないドイツ帝国に支払う羽目に陥ります。でも、予定より早く2年で完済しているのです。
これができたのは、ナポレオン3世がクレディ・モビリエ銀行という、かつての日本興業銀行のような産業金融を行う銀行をつくり、鉄道に投資して国内の基盤を整え、アフリカに植民地を設け、さらに自由貿易でフランスの国力を高めていたからです。
仲野 そのインフラがあったからこそ、ナポレオン3世亡き後の共和国の人びとが、公債を大量に引き受けて、多額の賠償金を短期間で支払うことができたんですね。
興味深かったのは、ナポレオン3世が唱えた皇帝民主主義です。これって、かなり自分に都合のいい発想ではありませんか?
出口 皇帝+民主主義ですから、明らかに矛盾しています。ただし、ナポレオン3世は、この考えを真面目に信じていたようです。第一、皇帝になった時も、大統領制を定めた憲法の下、皇帝制を導入するかどうか、国民投票にはかっているのです。さらに、労働者の団結権・ストライキ権、出版・集会の自由を認めて、当時の為政者たちからは驚きをもってみられています。最終的には、議員内閣制を認めた憲法までつくっていますから、すごくユニークだったことは確かでしょう。
仲野 ナポレオン3世の章の最後に、出口さんが、「何よりも、今に残るあの美しいパリの町を造った、その一点だけでもナポレオン3世を評価していい」と、捨て台詞みたいに感想を記しておられるのが、またよくて(笑)。
出口 結果的に、フランスが観光客で潤っているのはパリがあるからですよ。ナポレオン3世がパリの町を大改造するまでは、生ゴミや汚物が散乱し、もっと昔はそれらを掃除する目的で豚が放し飼いにされていたといいます。それを、金融界に顔の効くジョルジュ・オスマンを登用して道路を整備し、衛生面も向上させた。長い目でみたら、やはりナポレオン3世は、いいことをしているんじゃないかと思います。
仲野 フランスの近代化の基礎づくりをしたといえますね。女性にめっぽう弱い、皇帝なのに最後は捕虜になってしまう、そんなところも含めて、彼の人生はおもろすぎます。『世界史の10人』で読者の人気投票をしたら、きっとナポレオン3世が1位になると思いますよ(笑)。
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