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愛情たっぷりの子育て論(後編)――尾木直樹×杉山愛

愛情たっぷりの子育て論(後編)――尾木直樹×杉山愛

司会:吉井 妙子

『天才を作る親たちのルール――トップアスリート誕生秘話』 (吉井妙子 著)

出典 : #オール讀物
ジャンル : #ノンフィクション

――杉山家は以前、前作の『天才は親が作る』で取材させていただきましたが、子どもの頃から、「ママはこう思うけど、あなたはどう?」と、愛さんにたくさん考えさせる機会を作ってこられたらしいんです。

すぎやまあい 1975年神奈川県生まれ。92年にプロ転向。2000年に全米オープンで女子ダブルス初優勝。現在はジュニア育成に力を注ぐ。一児の母。

杉山 その通りです。

尾木 確かにそれは大事です。自己責任の課題が出てきますから。親が決めてくれたら「だってお母さんが決めたんだから」と人のせいにできますが、自己責任感が形成されるというのが自己決定の最も大きな副産物です。でも日本の教育現場では、それをやらない。校則などで全てルールを決めて、教師は子どもたちがそれに反してないかどうかだけチェックする、みたいな。

杉山 ナンセンスですね。

尾木 わあ、話の通じる人たちがここにいた(笑)。良かった。自己決定がなぜ大事かと言うと、自分で決めたことなら、失敗した時は「あ、自分の責任だ」と思って、自分で責任取って、じゃあ次にどういう工夫をするかというのを考えるわけですよね。成功した時は、自分で決めたから自信が付き、力になります。どっちに転んでも得なんです。だから、自己決定というのは、真に自己肯定感の高い子どもたちを育てる上では決定的に重要なポイントです。それを親が決めたり、正しくても無理にそっちに持っていったら逆効果ですよ。

――何歳ぐらいから「あなたはどう思う?」って問いかけるべきでしょうか?

尾木 これは本当に小さな頃からだと思いますね。

杉山 そうですね。私も記憶にないぐらいの頃から、多分赤ちゃんの時ぐらいから「どうしたいの?」って聞かれていたようです。幼少の頃から、いかにいろんなことを経験できるかというのが大切。頑張ればいいわけじゃないですか。いくら失敗したって、それを乗り越えていく力=レジリエンスさえつけば、いつか成功することもある。どう転んでもオーケーというか。私の子どもも、そういう子に育ってもらいたいなっていうのはありますね。

尾木 今おっしゃったレジリエンスの話なんかも、やっぱり親が子どものことを理解していないと、ここでちょっと言葉をかけようか、褒めていこうかというポイントが見えなくなるんですよね。レジリエンスの要素というのがあって、この子は根気強いとか、忍耐強いとか、あるいはおおらかであるとか、柔軟性があるとか、情熱家だとか、そういういろんな性質をしっかり掴めていてこそ、子どもをサポートできるんですよね。

杉山 同感です。

尾木 僕の専門の臨床教育学から見ても、杉山家はその点でモデルみたいな感じ。先ほど、杉山さんが、振り返ってみてずいぶん目をかけられ愛情を注がれてきたことが分かってきたとおっしゃっていましたよね。それが大事なことです。一人の子どもが親から精神的にも離れて自立してたくましくなっていくためには、一定量の愛情が必要です。例えば二リットル必要だとしたら、それを乳幼児期からずっとたっぷり与えられている子は、中学生における反抗期と言われる時期が一週間でも脱出しちゃうんです。ところが、愛情がまったく与えられてないような子は、本当に三年間暴れまくります。僕も現役の教師だったときに、反抗する生徒を、運動靴を履いてダーッと追いかけたことがあります。そういう子は追いかけられたがっているんですね。叱られたがっている。そういう変則的なかたちで愛情を確認するわけです。面白いですね。そういう生徒は本気で逃げ切りませんから。

【次ページ】尾木ママにもあった反抗期

天才を作る親たちのルール――トップアスリート誕生秘話
吉井妙子・著

定価:本体1,400円+税 発売日:2016年02月13日

詳しい内容はこちら

世界を舞台に活躍するトップアスリートの親の“子育て”を徹底取材。大谷翔平、宇佐美貴史、石川佳純、萩野公介、木村沙織、宮原知子、白井健三、井上尚弥、藤浪晋太郎ら十二家族の自宅を家庭訪問し、“子どもの才能を伸ばすためのルール”を明らかにした一冊。

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