学生時代からずっと東海林さんのファンでマンガもエッセイもたいてい読んでいた。
ひょんなことからぼくはモノカキになり、出版社から言われるままにいろんなことを書いているうちに「対談」というものをしないか、と言われた。
「対談」などという決闘みたいなことはできないけれど会って話をしたい人はいます。「誰?」と聞かれて東海林さんの名をあげた。
ありがたいことに、その編集者は東海林さんの担当だった。ただちに話はすすみ、新宿のビアホールではじめてお目にかかった。
おだやかな人だったが、ぼくは緊張していたから、はじめのうちやや座の空気はかたかった。これじゃまずいかな。なにかいわなくちゃいけないんだろうなあ、と思った。
幸い互いにビールが好きだったので、とにかくビールを飲んだ。とりあえずビールの効用はありがたい。
それから「つまみ」を何にするか、ということになった。メニューにこまかくいろんな「つまみ」の名がならんでいる。
東海林さんはあまり自己主張をしない方で「どれがいいですかね」と言ったきりだった。ぼくは友達と飲むときみたいに「つまみ」をアレコレ検討するよりも一刻も早く東海林さんにいろいろな話をうかがいたい。
「シーナさんどうします?」
と編集者が言うので、一番ポピュラーな品名が並んでいるページの「右端から五センチぐらい頼めばどうでしょう」と言った。
東海林さんはそれが面白かったようで「そういう注文の仕方もあるんですねえ」と言った。
それから急に座の空気が緩んだような気がした。
それいらい今日までずいぶん長いおつきあいをしている。二~三年ごとに対談シリーズというのをしている。月刊誌の連載、というケースが多く、まとまると本になり、もう五冊ぐらいになっている筈だ。そこではずいぶんいろいろな話をした。
東海林さんは驚くべき博識家で世相にもあかるく、なによりもすばらしいのは子供みたいに「なぜ?」というのと「不思議」というのをいっぱいもっていることである。そのあたりが本シリーズの根幹にあるような気がする。学ぶところがいっぱいあり、教えもいっぱいうけた。