――大ベストセラーになった『「体を温める」と病気は必ず治る』から約三年。最新刊『病は脚(あし)から!』には、「尻欠け」という新しい言葉をもとに、すべての病に勝つ健康法がわかりやすく書かれていますね。
石原 おっと、論より先に、運動、運動。この本には、椅子に腰掛けたまますぐに実践できる簡単な健康法がたくさん書いてありますよ。背筋を伸ばして下腹部に力をいれて、両足を地面から一センチほど浮かしてください。ちょっときついかもしれませんが、そのまま頑張ってみてくださいね。
――はい、では腹筋を鍛えながら(笑)。石原さんが日本人の「尻欠け」現象に注目したのはいつごろからですか?
石原 足腰が弱くなる現象を「尻欠け」という言葉にしたのは、長嶋茂雄さんが脳卒中でオリンピックを前にして倒れられたのがきっかけでした。倒れる二、三年前から、長嶋さんのお尻が妙に気になって仕方がなかったんですよ。ユニフォーム姿をみても、下半身がスーッと細くなられたのがわかった。人は下半身の筋量が落ちると、全身の血液が上半身に集中して“のぼせて”しまう。そうすると脳卒中を起こしやすくなるんです。
――「尻欠け」は、病の危険信号なんですね。
石原 ええ、診療では、初対面でパッと「あ、細い。危ないな」とわかります。巨漢タイプで上半身が大きくて下半身が妙に細い人は、とくに危ない。漢方で言う「腎虚」という状態です。生命力がだいぶ落ちていると言えますね。
――この本には、足腰の衰えが万病の根源となる、だから「自分から動いて鍛えましょう」というメッセージとともに、具体的な運動方法がイラストと文章で紹介されています。
石原 ええ、下半身の筋肉を鍛えるというのは、これまで私が百冊以上の本で首尾一貫して言い続けてきた「体を温めると病気が治る」ことと密接に関係しています。というのは、体を温める方法はいろいろありますが、いちばん効果的に体温を上げ、かつ持続させる方法とは普段から筋肉を使うことだからです。人体の最大の発熱器官は筋肉。その筋肉の七割以上は腰から下にありますから、「足腰を鍛える=体が温まる=健康になる」という方程式が成り立つわけです。足腰が弱まって冷えやすくなると体に悪い、というのは誰しも潜在意識下ではとっくに感じていることなんですよ。その証拠に最近、日本人に起こったブームは、ラーメン、激辛、温泉、ヨガなど、みな体を温めることばかりでしょう。温まることが気持ちいいんです。それは日本人全体の脚が弱って体温が下がっているからなんですね。
――石原さんのクリニックは現代医学の駆け込み寺だと言う人もいます。
石原 いや、終着駅ですよ。いま一日に平均二十人を診察しますから、一カ月で約五百人。新患は一日に二人しか診ませんから、きょう申し込むと診察は三年後です。それでも予約をいれていく方がいる。うちのクリニックはいまの医学では思うように改善しなかった方たちのターミナルなんです。
――たとえば、どんな方がいるんですか。
石原 きょう来ていたリウマチの方は、二十年間T医大にかかったが、回復のきざしがまったくない、不安だからとここを訪れた方です。指導したのは、手浴・足浴をして体を温めることと、補助器具をつかってスクワットをすること。それに体を温める食べ物の効果的な摂取法と少食にすること、これだけです。今回の本で、運動療法で回復した十の症例を紹介しましたが、クリニックのカルテには、本に書ききれないほど多くの実例が記録されています。重症のリウマチの方で手足がほとんど動かなかった方も、運動療法の実践でどんどんよくなっています。みなさん足腰がしっかりしてくるにしたがって、病気も改善されていきます。