インタビューほか

現実の手触りと小説の嘘――横浜をめぐって 堂場瞬一×伊東潤【後編】

「別冊文藝春秋」編集部

『横浜1963』 (伊東潤 著)

堂場 自分が理解できない人物こそを書きたい、知りたいという気持ちが強いんです。だから『衆』の鹿野みたいな、私が嫌いなタイプの人物も積極的に主人公にします(笑)。

伊東 そういう意味で、堂場さんの小説には嘘がないと思います。例えば男二人が喧嘩をする場面を書くとしても、堂場さんはギリギリのところで止めますよね。どちらかが壊れるまでボコボコの殴り合いにはしません。その現実感がクールでいい。

堂場 そうですね。たぶんそれほどの喧嘩は、普通に生きてたら一生に二、三度しかないと思うんです。小説的リアリティを考えたら、派手に殴り合った方が盛り上がるのでしょうが、現実ではそこまでやり合うことはあまりないんですよね。どうしても現実世界に引っぱられて小説を創るところがありますね。

伊東 いい意味で小説をきちんとコントロールされている。

堂場 もしかすると新聞記者時代の悪い尻尾が残っているのかもしれない(笑)。

伊東 いや、だからこそ堂場さんの小説には多くの読者がついてくるのだと思います。そこには信じるに足る確かな現実の手触りがある。僕も小説で何が大切かと聞かれたら、まず一番にリアリティだと答えます。

堂場 ちょっと違う言い方になりますが、私が小説で一番大事だと考えているのは空気感なんです。これを作家の側で完璧にコントロールするのは難しいけれど、キャラクター、ストーリー、テーマ、文体などの要素が、作家の中にあるフィルターを通ることで醸し出されてくる。そのメカニズムは自分でもわからないからこそ、小説を書く上で大切にしたいと思っています。

伊東 それがわからないからこそ、書くことはおもしろい。小説家という職業を神格化するつもりはないんですが、それは、ある意味で題材との化学反応ですよね。

堂場 そうですね。『横浜1963』は、伊東さんご自身の記憶と資料の読み込み、そして文体とストーリーが見事に合致して当時のリアルな空気感に溢れた小説でした。

伊東 堂場さんの言葉で勇気が出てきました。そこまで言っていただくと、堂場さんにリアルな横浜をご案内したくなります。

堂場 なんだかんだ言っても、伊東さんの横浜愛は強い(笑)。

撮影:白澤正

堂場瞬一(どうば・しゅんいち)

堂場瞬一

1963年茨城県生まれ。青山学院大学国際政治経済学部卒業。新聞社勤務のかたわら小説を執筆し、2000年「8年」にて第13回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。「刑事・鳴沢了」「警視庁失踪課・高城賢吾」「アナザーフェイス」など、警察小説の人気シリーズ多数。近年は昭和史を題材にした『Killers』『Sの継承』『衆』などがある。最新作は『メビウス1974』。


伊東潤(いとう・じゅん)

伊東潤

1960年横浜市生まれ。早稲田大学卒業。日本アイ・ビー・エム勤務後、外資系マネジメント、コンサルタント業を経て作家へ転身。『国を蹴った男』で吉川英治文学新人賞、『巨鯨の海』で山田風太郎賞と高校生直木賞、『峠越え』で中山義秀文学賞、『義烈千秋 天狗党西へ』で歴史時代作家クラブ賞を受賞。『横浜1963』は著者初の警察小説。

横浜1963
伊東潤・著

定価:本体1,500円+税 発売日:2016年06月08日

詳しい内容はこちら

別冊文藝春秋 電子版10号(通巻326号/2016年11月号)

定価:※各書店サイトで確認してください
発売日:2016年10月20日

詳しい内容はこちら


 こちらもおすすめ
インタビューほか現実の手触りと小説の嘘――横浜をめぐって 堂場瞬一×伊東潤【前編】(2016.11.07)
書評取り組むとなったら失敗は許されない。デビュー10周年で挑戦する現代物ミステリー(2016.06.29)
インタビューほか秀吉対利休、真の勝者は?(2016.07.14)
インタビューほか秀吉対利休、真の勝者は?(2016.01.07)
インタビューほか新しい信長像――そのカリスマと狂気(2016.03.14)
書評野心という魔物にとりつかれ、人生を変容させていく信長の家臣たちを描く(2016.03.11)
書評団塊世代の生きざまを明るみに出す 濃密な人間ドラマ(2015.07.13)
インタビューほか特別対談 池田克彦(第88代警視総監)×堂場瞬一(2014.10.10)