- 2016.11.08
- インタビュー・対談
現実の手触りと小説の嘘――横浜をめぐって 堂場瞬一×伊東潤【後編】
「別冊文藝春秋」編集部
『横浜1963』 (伊東潤 著)
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
読者に嫌われるような小説をどうしても書きたくなってしまう(笑)
伊東 堂場さんの『衆』を読むと、人間のエゴや業がよくわかります。この小説は、大学教授の鹿野が、四十三年前、学生運動の最中に起きたある死亡事件の謎を追うという昭和史ミステリーです。小説の常道としては、この鹿野という主人公に読者を共感させようとするのでしょうが、あえて読者を突き放した書き方をしている。鹿野は、自分勝手でとても嫌なやつなんですよね。
堂場 鹿野は団塊の世代で、自身も学生運動に身を投じていたという設定です。私は団塊の世代が苦手で。というのも、我々の世代が社会に出たころはちょうど団塊の世代が課長クラスだったでしょう。かなりいびられました(笑)。団塊の世代には、個人的なルサンチマンと怒りしかないので、鹿野は嫌なやつにしかなりえないんです。
伊東 新聞社だと、学生運動にどっぷりと浸かった上司も多そうですね。
堂場 伊東さんはひどい目には遭いませんでしたか。
伊東 僕は外資系の会社でしたから、全共闘世代もノンポリのお調子者ばかりでした(笑)。そんなこと言うと、怒られちゃうな。
これだけ共感を拒むような小説を書きながら、堂場さんが圧倒的な読者の支持を集めているのは驚異的なことだと思います。
堂場 もちろん『衆』のような小説が、あまり多くの読者に受け入れられないだろうことはわかっているんです。ただそれでも年に一回くらい、読者に嫌われるような小説をどうしても書きたくなってしまう(笑)。
伊東 なぜ、そんな気持ちになるのですか。
堂場 私の書く警察小説のシリーズは、読者に楽しんでもらうためのエンターテイメントですから、自分の本来の好みとはちょっと違う小説の作り方をしています。感情移入できるようなキャラクターを考えて、ストーリーは謎解きを中心にして、ほろっとさせるエピソードも入れて……。そういう書き方を続けていると、誰に理解されなくとも、自分勝手な小説を書きたくてたまらなくなる。そうすることで、自分のなかでのバランスをとっているんでしょうね。
伊東 読者に楽しんでもらいつつ、自分の追求するものを書く場所も確保しているということですね。それは、われわれ小説家にとって理想的な環境です。
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