- 2015.02.11
- 書評
真摯な取材の積み重ねで立証の矛盾が明かされる瞬間
文:河崎 貴一 (フリーランス・ライター)
『捏造の科学者 STAP細胞事件』 (須田桃子 著)
ジャンル :
#ノンフィクション
不採用となった科学誌の論文を徹底検証
小保方氏は、4月の釈明会見の席上、「STAP細胞はあります」「200回以上作製に成功しました」と反論した。しかし、「ある」という説に疑問を投げかけることはできても、「ない」ことを証明するのは至難の業である。理研にしても、再現実験や遺伝子解析を行って、STAP細胞はすべて万能細胞「ES細胞(胚性幹細胞)」などの混入だったと結論づけたのは、その年の12月になってからだった。
須田記者も、当初は、この論文の共著者である笹井芳樹・CDB副センター長に問い合わせて、「『絶対』に(会見に)来るべきだと思います」というメールでの返事に、STAP細胞に期待をもって取材に臨んでいた。しかし、論文の検証や、関係者への地道な取材を重ねるうちに、研究や論文の根幹にかかわる部分が崩れていく。それでも論文の共著者である若山照彦・山梨大学教授や笹井氏、理研の幹部に対して、丁寧かつ真摯にアプローチし、誠実に取材を続けている。本書に記された取材内容やメールからも、それがわかる。
とくに、『ネイチャー』や米科学誌『サイエンス』と同『セル』に投稿して不採択になった英語論文を入手し、論文と査読コメント、関連資料を同僚と手分けをして検証し、掲載された『ネイチャー』の論文には仮説に不利なデータが削除されていたことや、万能細胞の立証に矛盾があることに気づくくだりは、推理小説の謎解きを読むようでおもしろい。
須田氏が、これらの疑問を笹井氏に尋ねると、返信メールの最後には意味深な一文があった。
〈(ネイチャーに掲載された論文を)撤回してしまったあとは、何を言ってももはや仕方ないとも思います〉
その2週間後、笹井氏はみずから命を断った。
結局、小保方氏でさえ、厳重な監視のもとではSTAP細胞の再現は不可能だった。問題の論文は撤回され、小保方氏は理研を退職し、CDBは組織改編された。捏造者は特定されないまま、STAP細胞事件は幕引きされつつある。それでも、須田記者は、「STAP細胞事件は、誰が、何を、いつ、なぜ、どのように捏造したのか?」と追及し続ける。
このような捏造事件を二度と起こさないためには、STAP細胞事件を徹底的に追及し、その戒めを忘れないことしかない。
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