本書は2004年に日本出版社より刊行された単行本『空海曼荼羅』を文庫化したものです。単行本として出版された折に寄せられた著者の解説文を再録して公開します。 ※内藤正敏氏の「ミイラ信仰の研究」(抜粋)は、ご本人に連絡がとれず、当文庫には再録しておりません。
空海は、日本宗教史の巨星である。
日本が生んだ、最初の世界人と言っていい。
どのような人物であったかは、ここでぼくが書くより、本書を読んでいただくこととして、まず本書の成立について、簡単に語っておきたい。
「空海についての本を作りたいのですが」
と日本出版社のI氏から電話をいただいたのは、昨年(二〇〇三)のことである。
何故、ぼくのところにこのような連絡があったのかというと、ぼくが空海や密教に興味を持っていて、もう、一八年近くも、未完の空海の物語『沙門空海唐の国にて鬼と宴(うたげ)す』を書いていることを知っていて下さったからであろうと思う(なんと、この『沙門空海唐の国にて鬼と宴す』は、今年ようやく完成して本になることになっている)。
ぼく自身は、空海については、小説を書く時に利用できそうなあたりを広く浅く齧りちらしているだけで、空海について特別なことを書いたり語ったりするには、本人が考えても力不足なのだが、空海について書かれたものの中から、おもしろそうなものを選んで一冊にまとめる役ならばできそうであろうと思い、この依頼を受けることとなった。
本書の中では、十人の方々が、それぞれの角度から空海について語っている。
十人いれば十人、百人いれば百人の空海像があり、どれもがまことにおもしろい。
その十人の中に、ぼくの拙文をまぎれ込ませてしまったのは、編者の役得であり、どうか空海の如き広い心をもって、お許しいただきたい。
以下、本書収録中の作品について、簡単に語っておきたい。
「五大にみな響きあり」松岡正剛(「太陽」二〇〇〇年九月号・平凡社)
『空海の夢』(春秋社)という著書もあり、空海と丹生(水銀)との関係についても、氏は色々な場所で語っている。
本書収録中の作品の中にもあるが、氏が出演したNHKの番組は、ぼくも興味深く見させていただいた。
本書の中で、
「『空海は密教理論だけが詳しくなかった』とさえ言いたいほどだ」
と、おもいきった考えを呈示されているが、言われてみればなるほどとうなずける側面が空海にはある。
「実は空海は密教を密したのであって、それがどういうものであるかということをあえて縷々(るる)開陳しなかったとも言えるのである」
慧眼であろう。
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