書評

第一級の史料が示唆する「昭和天皇の肉声」

文: 保阪 正康

『「昭和天皇実録」の謎を解く』 (半藤一利・保阪正康・御厨貴・磯田道史 著)

 あえてつけ加えておきたいのだが、昭和天皇の在位期間(昭和元年十二月二十五日から昭和六十四年一月七日)は、六十二年と二週間に及び、西暦では一九二六年から一九八九年までとなる。国内にあっての六十二年と二週間という在位年数は、歴代天皇の中でももっとも長い。この間には、人類が体験した歴史的事件・事象(戦争、占領、敗戦、革命騒動、餓えから飽食まで)が詰まっている。その時代に存在した昭和天皇は、ときに国の主権者として、ときに象徴としての役割が課せられた。

 このような時代にあって、天皇は主体的にどのような君主であろうとしたのか、が最大の関心事である。

 昭和天皇の在位期間は二十世紀の三分の二弱を占める。二十世紀には、科学技術の異様な進歩、市民の誕生、ナショナリズムの昂揚など幾つかのベクトルを想定することができる。こういうベクトルの中で、日本はどう位置づけられるのか、そこで昭和天皇はどのような君主だったのか、が問われることになるだろう。あるいは他国からはどう見られていたか。そのこともまた、国際社会で確かめられるであろう。

 私たちは、国の内外で問われる昭和天皇像について、同時代史の中から答えをつくりだす必要がある。そのことが歴史的責務でもある。もしその労を惜しんだなら、次代の人たちから、私たちは〈歴史感覚欠如の時代の人なり〉と謗(そし)られるだろう。もとより「民(アカデミズムやジャーナリズム)」の側の書はあるにしても、第一級の史料は公開されていないがゆえの限界もあった。

 今回の『実録』について、私は、五十年、百年、あるいは二百年先の世代の人たちに、この時代の役割を果たしたとの感想を持っている。「官(国)」の側が可能な限り史料を用いて編纂したという意味では、この時代の総力がこめられていることにもなる。歴史的責任を果たしたとの思いを、同時代人としても味わうことができたが、肩の荷がおりたという人も多いのではないか。大仰な言い方になるが、読み解いていった私たちにも同じような思いがあり、その点を理解していただければと思う。

 本書は、『実録』の公開にあたり、「文藝春秋」(二〇一四年十月号)での鼎談(半藤一利氏、磯田道史氏、保阪正康)、さらに続編としての同誌(同年十一月号)での鼎談(半藤一利氏、御厨貴氏、保阪正康)に加えて、半藤一利氏と私の対談(その一部は「文藝春秋SPECIAL」二〇一五年季刊冬号に収録)を収めている。誰もが歴史的記録に触れることができたことを喜んでいたと付記しておきたい。

(本書「おわりに」より抜粋)

「昭和天皇実録」の謎を解く
半藤一利、保阪正康、御厨貴、磯田道史・著

定価:本体880円+税 発売日:2015年03月20日

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