インタビューほか

池波正太郎さんが世を去って四半世紀――いまなお残る、「鬼平」の残光。諸田玲子×逢坂剛

『平蔵狩り』 (逢坂剛 著)

諸田 人物が生き生きと動いているように読めるのは、頭にある観念だけで書いてはいないからでしょうか。

逢坂 ことに芝居の場合、俳優さんは生身の人でしょう。例えば、あの俳優はこの間女房と別れたばかりだよなとか、そんな個人の背景を考えながら脚本を書く。そういう人物造形をしていたのかもしれない。

諸田 池波さんは長谷川平蔵を主人公にして鬼平を書こうと考えてから、十年くらい後に書き始めていらっしゃいます。逢坂さんが、初めての時代小説『重蔵始末(じゅうぞうしまつ)』を書かれたときは、どれくらい時間がかかったのですか? 

逢坂 私の場合は、近藤重蔵という人物を知って惚れ込んで時代小説を書こうと思った。時代小説を書くために、キャラクターを探したのではなくて、近藤重蔵を書きたかったんです。そこから、重蔵に関する資料を目につく限りとにかく集めたんです。

 集めた資料を読み込んでいくと、それが非常に断片的なものであっても、あるいは断片的であればあるほど、まとまったときに一つの人間像が浮かんでくる。結果的に、『重蔵始末』を書き始めるために必要だった時間が十年でした。

諸田 時代小説は、さあ書こう、と思ってもすぐには書けませんよね。発酵させるために、時間がかかるというんでしょうか。それに捕物帳は、人間を、もっと言えば人生が何たるかを知らないと書けないと思います。

 池波さんは、作家になる前にいろんなお仕事をなさっていたし、『鬼平』を作るまでにもいろいろな試行錯誤があったからこそ、あの世界ができたと思うんです。

逢坂 池波さんの時代はやっぱり戦争もありましたからね。小学校を出て、すぐ働きに出たわけでしょう。ご当人は苦労と思わなかったかもしれないけど、本当に苦労をなさった。私なんて、実生活でも、女性関係でも、ほんと苦労していないからなあ。

諸田 私、たくさん苦労しましたけど(笑)。

逢坂 でも、それが肥やしですからね。むしろ、苦労していないのは自慢じゃなくて、恥ずかしいぐらいでね。

諸田 今、私は「読者を楽しませるのが一番大切だ」という池波先生の言葉を胸に、小説を書くことが楽しい、そう感じて日々を過ごしています。お金を出して本を買ってくれた人が楽しんでくれなかったら意味がないですから。別に芸術作品を書いているわけじゃない。悩んで苦しんで小説を書くくらいだったら、イイ男を探したほうがいいもの。

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平蔵狩り
逢坂剛・著

定価:本体660円+税 発売日:2016年12月01日

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