インタビューほか

池波正太郎さんが世を去って四半世紀――いまなお残る、「鬼平」の残光。諸田玲子×逢坂剛

『平蔵狩り』 (逢坂剛 著)

池波さんの人柄

諸田 編集者から、池波先生には気難しい一面もあったと聞いたことがありますが、実際、一緒に過ごされた逢坂さんはどう感じられましたか?

逢坂 いつもニコニコ明るくて愛想のいい人とは言わないけども、そんなに気難しい人じゃなかったですよ。

 ただ、たとえ世間の規範とずれていたとしても自分の意見をきちんと持ち、それを貫くところはありました。

諸田 逢坂さんの仲人は、池波さんだったとうかがいました。

逢坂 そうなんです。ですから、結婚してからは毎年、元旦に池波家に年始のご挨拶に伺っていたんです。

 当時、広告代理店で働いていて、私が池波さんと親しいことを知っていた同僚から、ある依頼をされたんです。クライアントが日本酒党の人物を表彰する賞を作った。第一回目の受賞者として池波さんが候補になったから交渉してくれないか、と。

 池波さんの性格を知っているから、おそるおそる連絡したんですが、「私はそういうのはやらん!」ときっぱり断られた。私が広告代理店に勤めていて、それが仕事だということはもちろんご存じなんだけど、だからといって、自分の主義を曲げるということはしない。

諸田 信念をしっかりとお持ちになっている。

逢坂 私が、ある小説誌の新人賞に応募したときも、池波さんが選考委員だったから、ちょっと甘い点をつけてくれるんじゃないか、と期待をしていたら、その池波さんからクソミソに言われた(笑)。

諸田 やっぱり、期待してしまいますよね。

逢坂 でもね、そのときに池波さんにいただいた言葉のおかげで今日の私があるわけですよ。作家としての心構えを示されたことはずっと覚えています。直木賞の候補になったときは池波さんが選考委員をしていらっしゃったから、また酷評されるのかとすごく不安でした(笑)。

 なんとか二回目で受賞できましたが、池波さんらしく、「良かったな」と一言、お祝いの言葉を下さった。

 では、ぶっきらぼうだからといって、人情がないわけじゃない。池波さんはパーティーが嫌いだったから、めったに出席されなかったんですが、ご自身の菊池寛賞の表彰式にはいらっしゃった。それで、会場の隅でぽつんと一人で酒を飲んでいたんです。

諸田 みなさん、池波さんが気難しいと思っているから、寄っていかないんでしょうか。

逢坂 そのとき、小学生だったうちの娘に、女房が買ってきた花束を持たせて、「あそこに立っているおじさんに、おめでとうって花束を渡しておいで」といかせた。そうしたら、池波さんが、ウワッって驚いた顔をして、照れくさそうに花束を受け取って娘の頭をなでてくださったんです。

 後日、娘宛にハガキが届いて、「あの日のパーティーで一番嬉しかったのは、あなたから花束をもらったことでした」と書かれていたんです(笑)。このハガキは今でも取ってありますよ。

諸田 池波さんは頑固一点張りじゃなくて、優しさももち合わせていらっしゃったんですね。まさに鬼平ですね。

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平蔵狩り
逢坂剛・著

定価:本体660円+税 発売日:2016年12月01日

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