――今回、アスリートの親を取材して感じたのは、尾木先生が常日頃おっしゃっている子育てに大事な要素が、実例として見られたということです。褒めて伸ばす、否定的な言葉を使わないなどを実践されている親御さんが多かったです。それはおそらく、事前にあった知識というより感覚的な行動のようでした。
尾木 教育の理屈ではなくて。人間的な感覚でできるものなんです。
――自己肯定感を子どもに根付かせるというのは特に多くの家庭に見られました。頑張って結果が出なかった時、親は「駄目じゃないか」とは言わない。「今日は頑張ったね」「明日ももう一つ行けるんじゃない?」と前を向かせる。肯定をされ続けてきた子って表情も違う。自然体でいられるのは、そのせいなのかと思います。
尾木 心理学の実験でこういうのがあります。百点を取った状況を「あなた百点取ったんだ。頭いいわね」と能力を褒めるクラスと、「あなたたち百点取ったの? すごく努力したのね」とそのプロセスを褒めるクラスに分けて、その過程で、同じテストをそれぞれのクラスでやってみた。Aは難しい問題、Bは易しい問題というのを用意して「好きなほうを選んでやりなさい」と言ったら、「あなたたち頭いいわね」と褒められ続けたクラスはどっちを選んだと思います?
杉山 簡単なほうですか。
尾木 その通り。それは、満点を取って、「頭いいね」と言われたいから。だけど、「あなたたち頑張り屋さんね。すごいね」と言われてきたほうは、みんな難しい問題を選ぶんです。
杉山 面白いですね。
尾木 アメリカなんかではよくこういった実験をして、はっきり研究結果が出てきています。でも、日本の親御さんは、百点取ったら「うわー、百円あげる」「お小遣い千円アップだ」など、常に結果だけを求める。それは「是か非か」なんてよく議論されていますが、そんなの「非」に決まってるんですよ。
――愛さんは、自己肯定感はどう養われていましたか?
杉山 それはやはり母でしょうね。いつも褒めて育ててくれたんです。当たり前ですが、必ずしもいい時ばっかりではなかったんです。勉強はもちろん、スポーツにおいても。でも、その時に、母は「あんなに頑張ったのに今回結果出なくて残念だったね」と一度その状況を認めてから、じゃあ、このままだと駄目だから、次は何か変えて練習してみよう、変えて勉強してみよう、やっぱり一夜漬けは駄目だったね、などと言って、一緒に受け止めてくれました。
あと、少し話は違うかもしれませんが、常に一番である必要はないという考えを母に教えてもらいました。私もテニスで、あるカテゴリーでは一番でも、上の年代でチャレンジするとお姉さんたちとやらなきゃいけないので一番になれない。そういう時に、この大会はチャレンジする気持ちでやってみよう、この大会は何が何でも優勝を目指してやってみようと、そのカテゴリーや大会の位置づけを考え、それぞれ意味を持たせてやってみたんです。そのやり方が、力になっていったと思います。
後編へ続く
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