尾木 日本の古い体質、根性論と気合や精神主義の世界からは早く脱出して、頑張ったプロセス自体をみんなが認め、自分の努力をきちんと評価できるような豊かなアスリート精神が育って欲しいですね。結弦君は、二〇一四年のソチオリンピックでは金メダルを取ったのに、最初「すいません、ホントに」と言ったんですよ。あれは、「最高の演技ができなくてごめんなさい」っていう意味なんです。彼を見ているとようやく国際水準になってきたなという感じがします。
杉山 それは、どうしてでしょうか?
尾木 ゆとり教育の成果が出てきたとも言えると思います。実施されたのは十年くらいの期間でしたが、アスリートの中からその成果が見え始めてきたという感じがします。もちろんご家庭の子育てとか指導者の力によるところもあるけれど、ゆとり教育という理念の中で育まれた、個を尊重して他人と競わない、自分と戦うという考え方も影響している。実はゆとり教育の理念は個別教育なんです。授業時間が減った、教科書が薄くなったとか、そんな表面的なところに矮小化されて語られましたが、集団とか全体主義ではなく、個への切り替えだったんです。教育の発展段階から言えばごく当たり前の歴史的な進歩だったのに、おびえて一気に戻ってしまった。まあ、また変わってくると思いますけどね。
――そのせいだと思いますが、二十歳前後の選手を取材すると、本当に自然体なんです。別に肩肘張ってないし、かといって自分を卑下するわけでもない。驚いたのは、全てのご家庭で、例えば大谷選手にしても萩野選手にしても、自宅には表彰状やトロフィーがたくさんあるはずなのに、全然飾られていません。
尾木 そこがすごいわ。成績に縛られない。メダルの色や数が問題なのではないの。自分が掲げた目標に向かってどれだけ精いっぱいやれたのか、自分と闘えたのかというプロセスが大事なの。それを親御さんが分かっているというのはすばらしい。
杉山 一番じゃなきゃいけないですか? 主役じゃなきゃいけないですか? ということですよね。その人にはその人に合った役もあるわけで、別に主役じゃなくてもいい。No.1は、それで素晴らしいけど、別に一番じゃなくてもいいですよね。ありのままでいいんです。
尾木 そう、ありのまま。僕はサインなどを頼まれた時には色紙に「ありのままに今を輝く」って書くんです。もしくは「愛とロマン」。どっちか。「ありのままでいいなんて言うとうちの子が成長しないじゃないですか。教育が成り立たない」とか言う親御さんや先生方は多いのですが、そうじゃないのよ。
杉山 頑張ることも、ありのままですもんね。そのままでいい、ではなくて。
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